・練習初期で声量が出ないのは当然
・声帯閉鎖の強度、声帯の振動効率、共鳴がキー
・より具体的に、意識するべき4つの項目を解説
前提情報を整理
まずは、ミックスボイスをしっかりと理解しましょう。声の種類とその性質については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ご覧になってから本記事を読み進めてください。
「声量方程式」と構成要素
次に、ミックスボイスにおける声量の考え方と、必要な要素について整理します。大切なのは、全ての基礎となるのは「A=声帯フォームの維持」であるという事です。仮に、この能力が0であれば、他の項目でどれほど優れていても声量は稼げません。
声量= A × (B+C+D)
A. 声帯フォームが耐えられる息の圧力(原数)
B. 声帯を健康的に振動させる
C. その振動を妨害しない
D. 体全体を共鳴させる

A. 声帯フォーム
結果的に体全体で増幅させるとはいえ、その源を作るのは声帯です。従って、何よりも先に「声帯のフォームが適切に維持されている」という事が前提になります。
声帯フォームについては、こちらの記事でご確認ください。「声帯フォームを力みなく維持できること」が、声量獲得の大前提となります。
また、この声帯フォームが耐えられる息の圧力が、以降の2~4を用いて出せる最大の音量になりますが、この耐圧性能は、日々の練習でしか向上させられません。
B. 健康的な振動
「健康的な振動っていったい何だろう?」そう思われた方もいると思います。なにせ、地声張り上げでは意識することが無い感覚です。しかし、この言葉の意味を理解することは、ミックスボイスの声量を獲得するうえで非常に重要です。
ピンと張ったアコースティック・ギターをイメージしてください。どれかの弦を指で軽く押し込んだ後、爪ではじいたとしましょう。そうすれば、ギターは予想以上に大きな音を響かせるでしょう。
大きな音を鳴らすことが出来た要因の一つは、弾かれた弦が、与えられた衝撃を最大化しながら自由に振動したためです。これと同じ状態を声帯の中で起こしてあげることが、声帯を健康的に振動させるということです。

C. その振動を妨害しない
ところがもし、もう片方の手で、弾く弦の何処かに触れていたらどうでしょう。その場合、弦を爪で弾いても「ボン」という鈍い音が出るだけです。この状態で音量を稼ぐには、弾く力を強くするしかありません。
しかし、この方法は、ブレーキを踏みながらアクセルを踏むようなもの。アクセルだけの操作、つまり声帯の振動を妨害しない発声を目指すのが、明らかに効率的です。
では、一体どうすれば声帯の振動を妨害しない発声になるのでしょうか?この発声を実現するためのキーとなるのは、筋肉と息の使い方です。
・声帯フォームの維持は、声帯周りの筋肉で行う
・息は一定かつ少量を送り続ける
筋肉の使い方
正しい筋肉を使えているか判断するためには、発声時に「顎の下と喉周り」を触ってみてください。筋肉の硬直を感じる場合は、参加するべきではない筋肉を使っています。(声帯周りの筋肉については、こちら)
そして何より、喉周りの筋肉に強い疲労を感じる場合も、間違った筋肉を使っている可能性が高いです。ミックスボイスならば、軽く2~3時間は歌い続けられます。
息の使い方
大量の息は必要ありません。細く一定の息を吐き出すイメージをキープすることが重要です。この意味で、腹式呼吸を身につけておくと良いと言えます。
適切な力でキープされた声帯フォームも、息を全力でぶつければ破綻します。息の強さと量には、絶えず注意を払うようにしましょう。

D. 体全体で共鳴
体全体で声を共鳴させて声量を稼ぐためには、声を向ける方向とは別に、体全体からも声が溢れ出る感覚が必要です。自分で方向を決める声が6割、体全体から放出する声が4割くらいと考えても良いでしょう。
方向を決める声(60%)
音の高低によって声を向ける方向を調整するのは、自然な事です。個人の体感によって調整するべきですが、私の場合、低い声は胸元に当て、音が高まるにつれ体の前面を通り、最終的には頭を回って後頭部に到達するという感じです。
放出する声(40%)
体全体から、四方八方へ声を放出するイメージです。私の場合、特に骨盤を意識して歌う事を大切にしています。体全体を使うというイメージが、丹田などの低い位置からも声を響かせるイメージを補助し、深みを持った音色を創り出してくれます。
さいごに
ミックスボイスの声量を増やすのは、根気がいる作業です。最悪なのは、声量不足に焦り、「張り上げ発声」に立ち戻ってしまう事です。声量の課題は、私たちが一生向き合う課題と考え、A~Dの要素を念頭に、地道な練習を繰り返しましょう。
また、感覚を自分の中に落とし込んでいく作業は、成長のために必要不可欠です。ただし、他人から伝え聞いた感覚だけで進んでいくのは、リスクがあります。
自分の中に信頼できる理論を持ち、まずはその枠に落とし込んで考えてみる。私の場合、軸となる理論はベルカント・SLSです(詳しくは、こちら)。
ただし、ベルカントとSLSはあくまで軸であって、全てではありません。15年に渡るボイトレ道の中で、私の体との対話の中を通じたマイナーチェンジを繰り返しています。
技術と知識と意欲。その三つが揃ってこそ、私たちの成長が実現できるのです。どの要素も軽視せず、貪欲に成長を目指していきましょう!