地声は誰でも出せる声。話し声という意味ではその通りですが、歌声としての地声は誰でも正しく出せるとは限りません。
歌声を一本化するためには、地声にも適切な調整を施し、喚声点付近にかかるミックスボイスの小橋を渡らなくてはならないのです。
小橋を渡るための基本方針は、「声帯フォーム」に寄せろ、です。どういうことなのか、以下で説明していきましょう。
結論
「地声は誰でも正しく出せる声」との誤解から、関心を持たれないことがあります。地声を鍛える必要はないですが、調整は必要です。
ミックスボイスに接続する前の地声を、ミックスボイスよりに調整してあげることで、滑らかに一本化した声を実現しやすくなります。
地声の調整
ミックスボイスはあくまで「疑似地声」です。つまり、響きは地声のように聞こえるが、実際は地声の声帯の使い方とは大きく異なる発声なのです。
ミックスボイスにつなげる前、つまり喚声点より下の2~3音あたりの地声をどう出すかが、声の一本化の精度に大きく関わってきます。
「声帯フォーム」の変化量を減らすことがポイントです。そのため、ミックスボイスの「声帯フォーム」とその時の発声意識を出来る限り地声にも適用することが基本方針となります。
「別記事:ミックスボイスの声帯フォーム」も、ぜひご覧ください!
調整その1:息の量を減らす
ミックスボイスの「声帯フォーム」は、息の吹き上げには耐えられません。地声時に息漏れさせて歌っている場合、接続調整が難しくなるでしょう。
表現として意図的に息漏れさせる場合を除き、出来る限り声をコンパクトにまとめるイメージで、息の声への変換効率を意識しましょう。
息の量を少なめにし、声が口の前でしっかりと鳴るイメージを大切にしましょう。息の量が多すぎると、口の前で声が響かず、胸元に声が落ちてしまいます。
調整その2:声帯を引き延ばす
「声帯フォーム」は、輪状甲状筋の働きで十分に引き延ばされています。急激なフォームチェンジを避けるため、喚声点付近の地声にも伸展の意識を加えていきましょう。
息の量を少なくすることと、声帯を伸展させることを組み合わせ軽やかに地声を発声するイメージを持ちましょう。
調整その3:力みをなくす
ミックスボイスは、疑似地声です。地声発声において全力に力んだ時の声とは、「声帯フォーム」は勿論、音質においてもかなりのギャップがあります。
従って、余裕で出せる音域だとしても、地声度100%で声を出してしまうと、声の一本化が難しくなります。常に声全体を考えた地声発声をしていきましょう。
「別記事:地声、裏声、ミックスの性質」も、ぜひご覧ください!
調整その4:地声に無理をさせない
ミックスボイスの「声帯フォーム」は、繊細なコントロールが必要です。余計な力みが介入してしまうと、簡単に崩壊してしまうほどです。
従って、地声を苦しくなる音域まで引っ張ってはいけません。喚声点を無理やり通過した場合、その後でミックスへ切り替えるのは非常に困難です。
コーネリウス・リード著 「ベルカント唱法~その理論と実践~」p111より引用
「胸声の機能を無理なく出せる音域以上に高く押し上げるどんな試みも許されない」
このことは、主に地声を引っ張り上げる危険性を指摘したものですが、ミックスボイスへの接続が不可能になるという意味をも含んでいると考えています。
楽に出せない音域の地声を鍛えること不要であり、危険です。地声は、鍛えるもののではなく、調整するものだと考えましょう。

さいごに
地声の調整はそれほど難しくないですが、その重要性への誤認から軽視されがちです。しかし、声の一本化には地声の調整が必要不可欠なのです。それでは、地声調整のために必要な意識を、まとめてみましょう。
・声の一本化には地声の調整が不可欠
・地声発声の基本スタンスは、ミックスボイスに寄せる
・地声で力まず、声帯を伸展させ、軽やかに出すのが基本
地声という本来簡単なはずの場所で油断し、ミックスを失敗するのはもったいないですよね。地声にもしっかりと目を向け、声の一本化を目指していきましょう!