ミックスボイスは高音をラクラクと出せる技術。しかし、この技術を真の意味で理解するためには、とある筋肉の覚醒が必要です。
「声帯フォーム」の中で働く筋肉、声帯交錯筋と仲良しになれば、この筋肉は、貴方の声を夢のようなレベルへと引き上げてくれます。
この記事では、高音はツラいモノという常識を覆してくれる筋肉を、貴方の発声に組み込むために重要な要素を解説していきます。
結論
私が考えるミックスボイスにおいて、最も重要な働きをする筋肉が「声帯交錯筋」です。この筋肉の覚醒には、長い鍛錬と忍耐が必要です。
この筋肉が適切に働くときには、柔軟かつ伸びやかな「声帯フォーム」の中で、小さな点が健康的に振動している感覚があります。
この感覚を掴むことが、最小の息で声帯を最大限に鳴らし、力みとは無縁の深みのあるミックスボイスを実現することに繋がっていきます。
声帯交錯筋とは
先述の通り、私が考えるミックスボイスを実現するうえで、最も重要な働きを持つ筋肉です。この筋肉には、以下のような特徴があります。
- (機)歌声の最重要筋肉で、覚醒には長い時間が掛かる
- (機)ひとたび覚醒すると、声帯の振動効率が急上昇する
- (感)声帯の中に小さな点があるような感覚になる
- (感)側筋・横筋による線的閉鎖への意識が消失する
1~2については、この筋肉の機能的特徴で、3~4は感覚的特徴です。なお、以下に1~4を意識した発声をした場合の発声デモもご用意しました!
発声デモ
★低音から高音までを繋ぐ発声(裏声を重視して、ソフトに)
★hiCロングトーン(普段は使っても大体ここまで)
声帯交錯筋の機能面
それでは、声帯交錯筋の機能面について解説していきましょう。声帯交錯筋が覚醒すれば、次のようなことが可能になります。
声帯を軽やかに鳴らしながら、健康的に響く声で歌い続ける
この筋肉は、上記のように素晴らしい働きをしてくれる筋肉です。しかし、黄金を得るのは簡単ではないように、その扱いには注意が必要です。
基礎情報の整理
ただし、この筋肉を目覚めさせるには、長い時間が掛かります。この筋肉に対してのフレデリック・フースラー氏の見解を、以下にご紹介しましょう。
【フレデリック・フースラー著 「うたうこと」p33より抜粋】
緑辺機構を危険なしに自由にするためには、長い注意深い多くの準備を必要とする
ここでの緑辺機構とは、声帯交錯筋という筋肉束を指しています。このように、同氏はこの筋肉の覚醒には注意深い準備が必要だと指摘しているのです。加えて、以下のような言葉で警告も発しています。
【フレデリック・フースラー著 「うたうこと」p33より抜粋】
この微細な筋束は非常に敏感で傷つきやすい。歌声の破滅(永続的音声障害)は、そのほとんどがこの部分から始まる。
練習方法と注意点
概要は、「別ページ:声帯交錯筋を覚醒させるための練習」で確認してください。「声帯フォーム」の中に点を意識しながら、軽やかに閉鎖することを目指して、NAYのスケールを繰り返すのが無難な方法です。
チェックポイント
この筋肉の練習は、筋トレと言うより神経支配の回復です。ですから、例え上手くいかなくても正しい意識を持って声帯に命令を送ることが重要だと考えています。
【フレデリック・フースラー著 「うたうこと」p33より抜粋】
良い流派ではすべて、それぞれ独自の方法で、この帯域の神経支配をよくすることに、絶えず大きな苦心を重ねてきた
始めは息が漏れてしまうでしょう。しかし、それでも最小限の息でも声帯は鳴るものと信じ、声帯神経に指示を出し続けてください。
始めのうちは命令を実現できない鈍った神経も、徐々に命令の意図を察し、その実現のために動いてくれるようになります。
この筋肉の練習では、息を大量に使ったり、喉を絞めてはいけません。この筋肉は、覚醒した後でも、そのようにして扱う物ではないからです。この筋肉は、ゲームチェンジャーなのです。
声帯交錯筋を使うときの感覚
参考までに、私が発声時に感じている感覚をお伝えしていきます。
声帯の中に点を感じる
声帯の中央部に、ボクシングなどで使われる鐘があり、その鐘がカーンと小気味よい音を立てるときの振動のイメージを、声帯振動に適用する感じです。
ボクシングの鐘は、衝撃を受けて自由に振動するため、良く響きます。声帯閉鎖も、無駄な力を入れず最小限の力で行う必要があります。
閉鎖感覚が進化する
声帯交錯筋が覚醒すると、「裏声+閉鎖+伸展」を基本とする「声帯フォーム」の操作感覚に、大きな変化がありました。
覚醒前の感覚
覚醒前は、横筋などを使って「声帯フォーム」を線的に閉じるという感覚を重視していました。喉の辺りで、前後に二本の割りばしを合わせるような感じです。
この感覚によって出される声は、ある程度の広がりや声量を持っていますが、声に芯が足りずどこかぼやけた声になってしまいました。
声はイマイチでしたが、私は「これでいい」と分かっていました。私は、「声帯交錯筋」が覚醒すれば状況は変わると確信していました。
覚醒後の感覚
「声帯フォーム」の中央に点として存在する筋肉が、音程に合わせて健康的に形を変え、隙間を埋める感覚です。また、先述の線的な閉鎖感覚は消失しました。
「声帯を伸ばしてピッタリ閉じる」ではなく、「声帯フォーム」の中央にある点を、変形させながら声を出すという感覚になりました。
さいごに
声帯交錯筋はゲームチェンジャー。その働きは、力んだ発声をすべて覆し、最小限の息で声帯が自発的に振動し、軽やかに響く声を生み出してくれます。
夢のような筋肉ですが、その覚醒には時間が必要です。また、スパルタ方式で痛めつけて成長する筋肉でもありません。その扱いはくれぐれも慎重に。
声帯交錯筋が働いてくれない段階からその存在を強烈に意識し、信号を送り続けることが、声を化けさせるただ一つの方法です。