ミックスボイスに憧れた私たちは、皆、同志です。私も、その憧れを抱き、10年以上にわたり独学でボイトレを続けてきました。
ミックスボイスは、裏声です。裏声と真摯に向き合っていけるかが、ミックスボイス習得のための最初のハードルです。
ベル・カント唱法の権威たちの指摘も交えながら、私の考えを説明していきます。皆さんに、素敵なミックスが訪れんことを!
はじめに
今回から、何回かに分けてミックスボイス習得論を書いていきます。私はこの方法で成長を続けてきましたし、歌手オーディションに3回合格できました。
まず、知るべきこと
ミックスボイスは、裏声の延長で出す声です。強めの声に憧れていても、裏声を練習することから始めなくてはなりません。地声を持ち上げてはいけないのです。
コーネリウス・リード著 「ベルカント唱法~その理論と実践~」p111より引用
「胸声の機能を無理なく出せる音域以上に高く押し上げるどんな試みも許されない」
このことから、喚声点より上の音を発声するために裏声の練習が必要なのは明らかです。そして、裏声には以下の2種類が存在します。
どちらの裏声も重要な裏声ですが、1の裏声は裏声発声への慣れ、2の裏声はその声自体の成長を目的としてトレーニングします。
2種類の裏声を探る
裏声には、2種類の裏声があります。それぞれ別々の特長があり、それぞれ声の成長に必要です。これらの裏声を鍛えることが、ミックス習得のファーストステップです。
声の開発手順
さしあたっての声の開発手順としては、以下の通りです。
裏声その1 : 虚脱した仮声(≒ファルセット)
多くの人が裏声を出す場合、この声になるでしょう。息漏れが多く、歌では殆ど使えない声です。ただし、この発声への慣れこそがミックスボイス習得の第一歩です。
以下に、ベル・カント唱法の権威であるフレデリック・フースラー氏の指摘も紹介しておきましょう。「虚脱した仮声」の重要性が、良く分かるはずです。
フレデリック・フースラー著 「うたうこと」P81より引用
仮声を欠く声は、決して声楽的な声とは言えない。(中略)すぐれた歌手で、自覚するしないにかかわらず、著しくよく発達した仮声的機構に恵まれていなかったという人は、いまだかつてない。
まずは、「息漏れのある裏声」を練習し、裏声発声に慣れていきましょう。声が弱弱しくても問題ありません。何故なら、その声自体は歌に使う声ではなく、この練習目的は裏声筋肉への挨拶だからです。
裏声その2:支えのある仮声(=ヘッドボイス)
「虚脱した仮声」で裏声発声に慣れてきたら、次は「支えのある仮声」の習得を目指します。これは、ヘッドボイスという名前でも知られている声です。
「支えある仮声」は裏声の一種ですが、「虚脱した仮声」よりも芯を持ちやすく、かつ高い音も出しやすい発声方法です。ただし、本質的な発声機構は同じ、裏声です。
フレデリック・フースラー著 「うたうこと」P81より引用
仮声区と頭声区は、まったく同一の発声的基本要素を備えた変形なのである
「支えある仮声」は、ミックスボイスへと発展していく将来性のある声と言えます。具体的には、女性のオペラ歌手の声などをイメージしましょう。
「支えある仮声」の発声法は、「虚脱した仮声」とは異なり、習得にはコツが必要です。以降で、解説していきます。
「支えある仮声」習得のコツ
「支えある仮声」には、「虚脱した仮声」の練習により、輪状甲状筋がある程度発達していることが必要ですが、その感覚を掴むための2つのヒントを紹介してきます。
「支えある仮声」の特徴は、「虚脱した仮声」に比べて息漏れが少ないことです。例えば、発声時に口の前に手をかざしても、殆ど息の流れは感じないはずです。
息の使い方を変える
「支えある仮声」の最大の特長の一つは、息の使い方です。息の使い方が、普通の裏声の出し方とはずいぶん異なります。個人的には、この息の使い方を習得することが、「支えある仮声」の習得において重要です。
感覚のヒント
具体的には、口から息を吐き出すのではなく、口の奥から鼻腔や後頭部に息を流します。ただし、息を向ける方向のイメージは、斜め下方向です。
胸の辺りに息を細く、ゆっくりと吐き下ろすようなイメージを持ちながら、「喉ちんこ」の奥から鼻腔へと息を流します。口から真っすぐ息を出していては、「支えある仮声」は出せません!
声帯を閉鎖する感覚を掴む
「支えある仮声」は、「虚脱した仮声」でと違い声帯を閉鎖する感覚が必要です。ハミング練習で感覚をつかむことが出来る場合があります。
また、高音から「虚脱した仮声」で降りてきて、急に音程を上げる練習もコツを掴むのに役立ちます。音を上げるその一瞬、声帯の閉鎖感覚がつかめることがあります。
感覚のヒント
声帯を、喉のあたりにイメージしましょう。例えば、二本の指を合わせる形。二本の指が合わさるときが、「支えある仮声」の閉鎖イメージです。
声帯のひだが、そっと合わさるようにイメージしながら、喉周りの筋肉に力みを入れずに発声します。喉の中の筋肉を軽く合わせるイメージで練習しましょう。
さいごに
「支えある仮声」を掴むことができたら、それは、喉を枯らさずに高音で歌い続けるための革命前夜です。頑張って練習しましょう!
そこからの練習も、決して楽なものではありません。しかし、総合的には楽しいものになることを保証します。一緒にボイトレを頑張っていきましょう!
・ミックスボイスは裏声感覚
・二種類の裏声なくして、ミックスなし
・ヘッドボイスをつかめたら、次のステージへ