「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回ご紹介する「稲穂」は、私が大好きなスピッツの隠れた名曲です。軽快でありながら哀愁も感じるラブソング。爽やかなのにどこか悲しく、優しい気持ちにもなる。そんな曲です。
バンドメンバーが目の前で演奏してくれているような、生の雰囲気が感じられる「稲穂」。この記事では、そんなスピッツの「稲穂」の魅力を、歌詞が描く世界への妄想を含めて語っていきます!
「稲穂」とは
「稲穂」は、2001年に発売されたスピッツのシングル「さわって・かわって」のカップリング曲。この曲は、ゴリゴリしたロック調の「さわって・かわって」と色合いが異なり、軽快な雰囲気を持った曲に仕上がっています。
一方、その歌詞に「夕焼け」が登場するなど、全体的なイメージは茜色。夕日を受けて輝く稲穂を見つめながら、田んぼ近くのあぜ道を歩くような感覚を覚えます。そんな「稲穂」の個人的なお気に入り度は、星4.5になっています。
曲名 | コメント | お気に入り度 | |
1 | 稲穂 | 嬉し哀し、そして優し |
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「稲穂」の印象
「稲穂」は、特別に目立った知名度を持つ曲ではありませんが、私にとっては大切な曲です。この曲が持つ温かい雰囲気と描かれる世界は、人気曲の持つそれと比べても、全く遜色ないものです。そんな「稲穂」の魅力を、以下の3点で語っていきます。
1. 演奏について
この曲の演奏が持つ大きな魅力として、生演奏の感覚を挙げないわけにはいきません。特に、イントロの草野さんのアコギ一本での演奏は、本当に美しいです。目の前に草野さんがいて、ギターをかき鳴らしているかのような演奏が楽しめます。
私は学生の頃にブルーグラスという音楽をやっていて、少しだけアコギをかじったものですから、アコギの音色に敏感です。そして、この曲の細かいギターストロークが本当に美しく、カッコよくて、ワクワクする。本当に、惚れ惚れしてしまいます。
また、ベースが持つ躍動感も注目するべきポイントです。演奏全体がシンプルにまとまる中、この曲をけん引しているのは、踊るようなベースラインだと感じています。曲が持つ温かさを引き立てるという点でも、ベースプレイが素晴らしいですね。
後は、間奏のギターソロでしょうか。膨らみを持った音色のギターソロが描く情景を言語化するならば、首をもたげる稲穂を染め上げながら、山の向こうへ沈む夕日。優しさに溢れた演奏で、心が温かくなるギターソロだと感じています。
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2. ボーカルについて
この曲でのボーカルでは、草野さんのハスキーボイスを存分に楽しむことが出来ます。特に、イントロ部分のアコギ一本での弾き語り部分のボーカルは、思わず私が使っているポータブルスピーカーを耳元に持ってきてしまうほどに魅力的です。
この曲を聴くと、改めて草野さんの声の二つの魅力に気づかされます。草野さんの声は、中音域くらいまでは、少し息っぽい声。ただし、その存在感は決して薄くならず、温かい広がりを持ったハスキーボイス。甘い声というより、温かい声です。
そして、高音域へと移動するにつれて、その声には独特の輝きが宿り始めます。高音になると、声の密度が少し強くなる感じかもしれません。高音域では、その声に瑞々しい潤いが加わり、少しクリーミーな感じになると言えるかもしれません。
この曲のボーカルで一番好きなポイントは、非常に細かくなってしまいますが、アコギ一本で歌っているときに出てくる「愛」という歌詞の「あ」の声。この一音だけで、私の声は完全に「稲穂」の世界に引き込まれてしまいます。
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3. 歌詞について
この「稲穂」という曲から感じる情景は、優しい風景が広がる地方の田舎。田んぼがたくさん広がっていて、遠くには色合いを鮮やかにした山々が見えるようなイメージ。「稲穂」というタイトルから言っても、季節は秋をイメージしました。
なお、歌詞の中で描かれる情景は、その美しい田園風景だけではありません。歌詞の中には、「街」という言葉が登場するのです。街の中に田園があるとも思えませんし、街と稲穂が輝く場所とは、それぞれ意図を持って対比されていると感じます。
私がこの曲から感じるテーマは、「夢の終わり」です。街で夢を追った主人公は、やがてその身を、稲穂がそよぐ優しい田舎へと移す。夢の終わりに伴う痛みは、夕日に照らされて優しく染まっていく。そんな彼の横には、新しく得た喜びも。
それは、君という存在。新しい喜びを得た主人公が、それまでの夢に別れを告げ、君と二人で新しい夢を始めようとする姿を描いたのが、この「稲穂」ではないでしょうか。人生、悲哀こもごもであるけれど、それでも人生は続いていくのです。
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歌詞の世界を妄想する
ここからは、「稲穂」の歌詞を追いながら、この曲が描き出す具体的なストーリーを妄想します。今回の妄想のキーとなるのは、「夢の終わり」。このキーを中心としてこの曲を妄想すると、以下の3つの展開が浮かび上がってきました。
1. 登場人物とその姿
この曲に登場するのは、主人公と君の二人。主人公が男性で、君が女性だとしましょう。二人の関係は、曲中に「愛」という歌詞もありますし、恋人関係としても不自然ではないでしょう。今回の妄想では、その設定を採用したいと思います。
主人公は、夢を追う青年だと考えています。彼は、現実味が無いほどに大きな夢を追って、何度もその夢に挫折しかけながらも、自分を叱咤激励し、何度もその夢の風船を無理やり膨らませ続けてきました。彼には、その夢を追う事が全てなのです。
また、彼は、自分が暮らす街を「くじ引きが多い街」と表現しています。これは、物事を決めるのが実力ではなく運であるという彼の感覚を示していると解釈しました。また、常に「はずれ」を引き続けている現状を揶揄する意味合いもあるでしょうか。
一方の君に関して言えば、主人公がまったくの偶然で出会った女性だと想像されます。街につれなくされ続け、当たりなど引いたことがなかった彼は、その街で自分にとって意味のある誰かに会うという事態など、想定できなかったのです。
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2. よそ見の日々と、夢を割る蜂
1番メロの彼の挑戦の日々について、彼女が反応を見せるシーン。これは、彼が打ち明けたというより、意図せずに彼女に知られてしまったシーンを想定しました。知られたくなかった苦境。しかし、ここの彼女の反応は、彼は大きく心を乱されます。
彼女は、そんな彼の日々を「サラリと撫でた」とあります。これは、彼の全力の日々を賞賛し、かつ労わったということでしょう。街にいる他の人は、結果が出ていないという一面にしか目を向けなかったのにも関わらずです。彼は思わず、涙を流します。
また「君から逃げきれない」と言う表現は、一心不乱に夢だけを追ってきた自分が、突然現れた君に気をひかれている状況と、自分はよそ見をしている場合ではないという、二つの感情の板挟みとなった彼のジレンマが表現されているように思います。
しかし、どうやら彼は、自分の中から彼女の存在を消すことは難しいようです。彼は、これ以上、嘘をつくことが出来ないと感じているのです。彼は、自分の中にあったジレンマの鎖を解き放ち、君という名の蜂へと近づいていくのではないでしょうか。
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3. 夢の終焉。そして・・・
蜂に刺された主人公は、君と過ごす新しい日々を始めました。夢を追った日々は過去となり、彼の姿は街を離れ、田舎にありました。季節は、山々が色とりどりに装いを変える秋。二人の姿は、夕暮れの太陽が優しく照らす、稲穂の波の側にありました。
黄金色の海の近くに腰を下ろした彼の傍には、君の姿。夢を叶えることだけが自分の幸せだと思っていた彼ですが、今の彼の心は驚くほどに穏やかで、優しい気持ちに溢れています。この気持ちは、一体なんと呼ぶべきでしょうか?
優しく揺れる穂波を眺めながら、彼は自分の夢が終わりを迎えたことをしみじみと感じています。遠く離れた街で全力を尽くした日々。届かなかった夢。しかし、そのことに未練や後悔はありません。彼には新しい夢が見つかっているのです。
彼は、新しい夢を追う前に、昔の夢と正式なお別れをしたいと考えました。盛大なお別れのセレモニーが相応しい。それも、一人でひっそり見送るのではなく、自分の夢のかけらを知っている君と、二人で見送るべき。彼は、そう思ったのです。
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さいごに
この曲は、素晴らしい。何といっても、曲全体から感じる優しい夕日色が好きですね。2番のサビは、直球で考えると性的な解釈も可能だとは思いますが、私の趣味的には違う解釈の方が好きなので、こういった妄想になりました(笑)