「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回ご紹介する「アパート」は、スピッツ初期のラブバラード曲です。曲全体に漂う曇天感と、切ない歌詞が印象的です。
この記事では、そんなスピッツの「アパート」への感想を述べつつ、その歌詞が描く世界についても考察してみようと思います。
「アパート」とは
「アパート」は、スピッツが1992年に発売した通算3作目のアルバム「惑星のかけら」に収録されている楽曲で、テーマは失恋の様です。この曲はシングルカットされていないため、スピッツファンのみぞ知る一曲。個人的なお気に入り度は、星4つです。
君との恋が歌われる本曲からは、曇り空の中でぼんやりと過去の痛みに触れるような雰囲気を感じます。また、サビ部分は美しいですが、スルッとメロと繋がるため、あまりサビという感じがせず、曲全体を通して聴く感じがしっくりきます。
曲名 | 曲調 | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | アパート | 曇天・失恋ソング |
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「アパート」の印象
ここからは、「アパート」に対する個人的な印象を語っていきます。曇天を感じる切ないラブソングの魅力を、以下の3点から考えてみます。
1. 演奏について
この曲の演奏が持つ印象を一言で表すと、コンパクトにまとまっているという感じ。演奏時間は3分程度であり、極端に短いわけではないのですが、あっという間に曲が終わってしまう感じがします。想い出の中の小旅行といった感じかもしれません。
演奏で特徴的なのは、エレキギターとベースですね。エレキギターは、この曲の特長的なイントロを作り出すほか、曲の背後でなり続けていますね。指をたくさん動かす必要がありそうなギタープレイは、スピッツギターの本領発揮でしょうか。
また、ベースラインも気になります。イントロ部分もそうですし、サビを支えるベースラインも、それ単体で聴くと明るいノリを感じるのです。サビがこの曲の曇天を象徴していると感じるのに、それを支えるベースラインは明るい。音楽は、難しいですね。
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2. ボーカルについて
この曲のボーカルには、全体として儚げな雰囲気が漂っています。憂いを多分に含んだボーカルスタイルは、主人公による悲しみを含んだ独白という感じです。また、スピッツにしては低音域を使用する曲なので、草野さんの低音も楽しめます。
曲がサビに至っても中音域を使用するのみで、ドラスティックなボーカルスタイルの変化はありません。感情の揺れを微かに滲ませながらも、全体としては淡々としたボーカルは、この曲の主人公が持つ諦念と結びつく要素なのかもしれません。
また、この曲のモヤのかかった感じを強く印象付けているのは、サビだけに入る幻想的なコーラスでしょう。コーラスのないメロでは冷静に現実を振り返っていた主人公は、コーラス入りのサビではもっと感覚的な物思いに沈んでいるのかもしれませんね。
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3. 歌詞について
この曲は君との恋を歌った歌ですが、演奏が生み出す雰囲気はもちろん、歌詞そのものも、その恋が良い形で成就しなかったことを明確に示しています。この曲のテーマは「失恋」だとされているようですが、それも納得という物です。
ただ、主人公をやり場のない後悔の渦に引きずり込んでいる二人の経緯については、解釈の余地があるでしょう。彼女に愛想をつかされた、彼女が自分の目標のために別れを選んだ、彼女が天国へ渡っていった。いずれもあり得ると感じます。
初期のスピッツには、「生命の終焉」を匂わせる曲が多いです。そして、この曲もその解釈が当てはまる曲だと言えるでしょう。ただ個人的には、もう少しマイルドな、君の心を無視し続けた結果、君から別れを告げられたという物語を考えたいですね。
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歌詞の世界を妄想する
ここからは、「アパート」の世界を、より具体的な形で考えていこうと思います。この曲のキーは、「取り戻せない日々」としてみました。そのキーに基づいて、以下の3つのトピックを中心として、この曲の世界を妄想してみます。
1. 登場人物とその関係
この曲に登場するのは、主人公と君。そんな二人は釣り合いの取れた二人とされていますし、サビでは、後から振り返る形とはいえ、主人公から君への恋心が歌われています。このことから、二人の関係は恋仲だったと考えて問題はないでしょう。
ただし、その関係が順調だったとは思えません。そもそも、主人公が語る君への恋心も過去形で表現されているのです。サビの描写を見ても、悪い意味で君との関係に甘えてしまい、自己中心的に振る舞う姿が浮かび上がってきます。
そして、この曲が歌われている時点では、二人はその関係を解消していると見るのが自然でしょう。だからこそ、主人公は後悔しているのです。彼女は二人の生活に疲れてしまい、彼の前から静かに姿を消したのだと思います。
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2. 君への甘え
この曲のタイトルの「アパート」とは、二人の日々を象徴するものだったはずです。なお、このアパートは、「君の」と形容されています。二人は同棲はしていないものの、彼はそのアパートをときおり訪れ、二人の時間を過ごしていたのでしょうか。
彼はサビにおいて、「恋に落ちたのは誰か」という事柄について、それは自分だったと独白し、君への恋心を語ります。ただ、後になってこんなことを言い出すということは、過去の時点では、恋をしているのは君だと思っていたのだろうと感じます。
だからこそ、主人公は君に対して配慮を欠き、我が儘に振舞ったのでしょう。「俺のこと、好きなんだろう?」という姿勢で、彼女に対して束縛的に振舞った可能性すらあります。そんな態度によって、二人の関係に歪みが生じ始めるのです。
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3. 青色の日々
全体的に色の薄い世界が広がっている本曲ですが、歌詞には一か所だけ、明確な色を持つ部分があります。それが、二人の日々を形容する色として、青色が登場しているのです。この曲においてこの部分だけが、妙な鮮やかさを持ってリスナーに迫ります。
この「青色の日常」は、何を意味しているでしょうか?幸せを象徴する色としては、青色は最適とは言えない気がします。澄んだ青は美しいですが、青は悲しみを含む寒色でもあるのです。ここでの青は、二人の冷え始めた日々を表しているのかもしれません。
色を失ってしなびていく花は、君の心を表しているでしょう。優しく穏やかな君に甘え、自分の要求ばかりを押し付けた主人公は、彼女の心に咲いた花を枯れさせてしまったのではないでしょうか。それが、二人の関係の終焉を招くとも知らずに。
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4. 破損した今
そんな青色の日々を経て、君は主人公の前から姿を消してしまいます。そして、彼は君の存在がいかに大切なものだったかを痛感します。しかし、もはや君を取り戻す手段は残されていません。彼に出来ることは、ただ過去を振り返ることだけです。
彼は、君との日々を過ごしたアパートを思い浮かべますが、そのアパートも、既に取り壊されています。君との日々を象徴するものは、もはや何もないのです。しかしそれでも、彼は君と過ごした日々への後悔を振り払えずにいます。
また、この曲は朝を迎えた時点で終幕を迎えますが、彼の世界に朝が訪れることはありません。この朝表現は、世界と彼との明暗を対比した物に思われます。彼は今日も、二度と会うことのできない君へ、やり場のない後悔を抱えて生きるのです。
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さいごに
草野さんが自分の作曲テーマに「生命の終焉」が大きな要素を占めると明言している以上、この曲もその方向で検討するのが妥当かもしれません。ただ今回は、少しだけマイルドな方向で考えてみました。重すぎる解釈は、ほどほどにしたいのです(笑)
「そのほかのアルバム収録曲」も、ぜひご覧下さい!