「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「コスモス」は、スピッツの5thシングル「日なたの窓に憧れて」のカップリングで、幻の中を彷徨うようなドリーミーな一曲。
以降では、そんな「コスモス」の魅力を語りつつ、歌詞の意味も考察。今日この日、君の幻影に別れを告げる青年の物語を考えました。
「コスモス」とは
「コスモス」は、1992年に5thシングル「日なたの窓に憧れて」のカップリングとして発売され、後年「花鳥風月」にも収録されました。幻の霧の中を漂うような雰囲気を持ち、歌詞も相まって初期の曲に多い、儚げでやや危うい世界も漂う一曲です。
曲名 | 曲調 | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | コスモス | 幻の霧、ゆったり |
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1. 演奏への印象
「コスモス」の演奏には、ゆったりとした落ち着いた雰囲気を感じています。ただ、歌詞も考えると心安らぐという感じではなく、茫然自失の方が近いでしょうか。美しい世界の広がりと、その世界の中でただ立ち尽くす主人公の姿が浮かんできます。
演奏面では、ゆったりしたテンポの中で漂うような、ぼやけた感じのギターが気になります。優しく儚げな音色で、曲が持つ独特の雰囲気を作り出しています。どこか夢うつつとでも言うか、幻の霧とでも言うか、ぼんやりとした雰囲気を感じますね。
また、「コスモス」は全体的に高音域を使用せず中低音が続く楽曲であり、草野さんの少し掠れた声を堪能できます。初期のボーカルは輝く少年の声のイメージが強いのですが、「コスモス」を聴くと初期の時点でも深みを持った声だと感じますね。
2. 個人的な想い
「コスモス」を聴いて、「オーロラになれなかった人のために」の収録曲っぽい雰囲気を感じる人は多いでしょうが、私もそのうちの一人。曲の歌詞は生命を強く感じさせますが、それは例えば、オーロラの「ナイフ」に重なる要素だと言えるでしょう。
また、「コスモス」は歌詞の内容もそうですが、その描写の美しさにも興味を引かれます。その歌詞は、文学的とも詩的とも言えそうな奥深い雰囲気を醸し出しています。その雰囲気には、オーロラの「田舎の生活」に重なる要素を感じる私がいます。
また、「コスモス」は曲の雰囲気から言って、深みのあるハスキーボイスが活きる曲。デビュー当時のボーカルも素敵ですが、今の草野さんのより深みを増したボーカルでも聴いてみたいですね。また違った味わいのある「コスモス」になるでしょうね。
歌詞の世界を考える
ここからは、「コスモス」の歌詞を追いながら、歌詞の意味する世界を考えていきます。今回の考察テーマは、「今日この日から」としました。また、そのテーマを補足するために、以下の4つのトピックを準備してみました!
解釈は私の感想に過ぎず、全くもって他人に押し付けるものではありません。また、作詞意図に沿った「正解の解釈」より、私の感想が優先されます。なお以下で、私の解釈のスタンスをまとめています!
1. 考察の前提
コスモスの花言葉には純潔という意味があり、これは彼から見た君の印象を示すでしょう。なお、二人は友達以上恋人未満の関係だったとします。ただ、2番サビで描かれる「君に関する仮定」を逆説的に捉え、君は既にこの世を去っているとしました。
ところで、クロールは最も速度の出る泳ぎ方。そして、その泳法が時間と結びつく場合、それは体感時間の速さを示すと考えました。そこで、これは彼が君の想い出に浸って意識を手放すことが多く、飛び飛びの時間の中を生きている示唆としました。
また、彼が得た力は幸せの浮遊感ではなく、君を失って何も手につかなくなった感覚を示すと考えました。その力はある日を起点に続いてきたようですが、君を失った後も幸せと考えると違和感がありますし、サビでの乾きの描写ともぶつかるためです。
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2. あの約束
二人で海へ行く約束。果たされなかった約束。君は気づかなかったかもしれませんが、あの約束は彼にとって大きな意味を持っていました。偶然でも成り行きでもなく、準備される二人だけの時間。それは彼にとって、ただの友達の枠の外の約束でした。
彼のオンボロカーを飛ばし、あの海へ。助手席に初めて招く君と、少しぎこちない会話を交わしつつ、あの海へ。そして、美しく輝く海の魔法に包まれたなら、二人にはきっと何かが起こったはずです。二人の関係を変えたかもしれない、素敵な何かが。
そして彼は今日、あの約束をなぞるために、一人であの海へ行くつもりでした。約束と同じ日、同じ時間、同じ車で同じ場所へ。約束との違いは、たった一つだけです。一つだけの、しかし大きすぎる違い。大切な君が、彼の横に座ることはありません。
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3. この場所
海へと向かう前に、彼は君と出会った場所に立ち寄っていました。あの秋の日、ここでそよ風に揺られていた君。その清らかさを前に、太陽さえも恥じらいながら君を照らしていましたし、彼からしても、そんな君は息を呑むほど可憐に映ったのでした。
そして今日、また同じような秋の日。ただし、君はいません。君はその清純さを見初められ、既に天へと引き上げられたのです。君を想って見上げた青空には薄い月。彼の頬をそよ風が撫で、足元の花を揺らしました。凛と咲いた、コスモスの花を。
同じような空、同じような月、そして同じように揺れるコスモス。そんな景色の中に佇んでいる彼は一瞬だけ、あの日に戻ったと錯覚するほどでした。しかし、あの日は既に過去であり、戻ることは出来ません。そして何より、君はもういないのです。
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4. コスモス
君が天へと旅立ってからも、君を探し続けた彼。そして、君の影一つ見つけられずに、深く傷ついては想い出に逃げ込み、自分を癒そうとした彼。しかし、そんな日々は結局、彼の心を荒らすばかりでした。そう、本当は彼にも分かっていたのです。
君はもう、この世にはいないということを。世界の何処を見渡しても、君が見つかることはないということを。あの優しい微笑みを見ることは、もう二度とないということを。そして、自分はそれを受け入れて前へ進まなくてはいけないと言うことを。
だから彼は、今日君との約束をなぞり、その約束を天に帰すつもりでした。今日この日、彼は現実に目を背ける日々に永久の別れを告げるのです。コスモスのように可憐な君に、心からの愛を込めて。これまでありがとう、そしてさようなら、と。
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さいごに
歌詞中の永遠の別れとは君が天に昇った過去ではなく、現実逃避的な生き方との別れ、つまり前向きな別れを指すとしました。また、二人を完全な恋仲としなかったのは、片想いの方が文学的に雰囲気にハマる気がしたという、完全な嗜好由来でした。