「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「ナサケモノ」は、スピッツの15thアルバム「醒めない」の収録曲。温かさと力強さを兼ね備えたロックバラード曲だと感じます。
この記事では、そんな「ナサケモノ」の魅力を語りつつ、歌詞も考察。飾らぬ恋心を君に伝えようとする、青年の物語を考えました!
「ナサケモノ」とは
「ナサケモノ」は、スピッツが2016年に発売した15thアルバム「醒めない」の収録曲。前曲の「コメット」は温かさと切なさを感じるラブソングでしたが、続く「ナサケモノ」もまた、ラブソング。ただ、前曲に比べてロック色が強まっていますね!
曲名 | 曲調 | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | ナサケモノ | ロックバラード |
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1. 演奏への印象
「ナサケモノ」の演奏には、微かなノスタルジーを覚えています。また、典型的ロック曲と言えば言い過ぎでしょうが、前曲「コメット」に比べればロック色が強めですね。特に、間奏のエレキギターのソロには、ロック色がバリバリ出ていると感じます。
とは言え、「ナサケモノ」は全体的な雰囲気は軽めの一曲。イントロでのネジを巻くような音やバッキングギターも、良い意味でちゃちな感じがします。私の感覚では、「ナサケモノ」は、埃を被っていた懐かしのオルゴールを連想するような曲ですね。
暫らく忘れていたけれど、たまたま目に入って嬉しさがこみ上げる小箱。拾い上げて抱きしめたくなるような小箱。その箱が奏でる、ちゃちなのにどこか懐かしい音色。私は「ナサケモノ」の演奏に、そんな染み入る温もりを感じています。
2. 個人的な想い
私は、「ナサケモノ」というタイトルに興味を惹かれています。草野さんの造語であるこのタイトルに、「情けない」という意味がかけられているのは、歌詞からも明らか。ただ私は、「ナサケモノ」とのタイトルに、もう一つの意味を感じています。
それは、「情けある」生き物というスピッツ的な人生観。字面上は矛盾するようですが、それぞれに「情け」の意味合いが異なるのです。「情けない」の「情け」は、カッコよさを指しますが、「情けある」の「情け」は、思いやりの心を指すのです。
つまり、「ナサケモノ」とは、カッコ悪いながらも優しい生き物。そう、このタイトルにはスピッツが考える人間という生き物への見方が多分に含まれているのではないか、と。草野さんが「ナサケモノ」に込めた意図は別にして、私はそう感じています。
歌詞の世界を考える
ここからは、「ナサケモノ」の歌詞を追いながら、その歌詞の意味する世界を考えていきます。今回の考察テーマは、「ただ、伝えること」としました。また、その考察テーマを補足するため、以下の4つのトピックを準備してみました!
解釈は私の感想に過ぎず、全くもって他人に押し付けるものではありません。また、草野さんの作詞意図の正解よりも、私の感想が優先されます。なお以下で、私の解釈のスタンスをまとめています!
1. 考察の前提
「ナサケモノ」は、破局を迎えそうな恋人同士の物語だと考えています。二人の描写では、2番サビで二人とも傷を抱えていることが分かります。また、彼が目指していた未来も、傷をなめ合うだけの後ろ向きなものだったことが示されていますね。
ところで、歌詞は大別して「出会い」、「君との日々」、「破局寸前」という三場面に分けられるでしょう。本来出会えるはずもなかった離れ離れの二人が、不思議な星の力に導かれて一緒になったものの、やがてその関係にも陰りが、というシナリオです。
破局の主な原因は、主人公の情けない態度。例えば、2番のサビでは君との約束を果たせなかった彼の姿が描かれ、彼はそんな自分を「ナサケモノ」と自嘲していますね。以降では、それでも君への想いを捨てきれない彼の、最後の挑戦を考えます。
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2. 抱え込んだ愛
君の名前、たったの二音からなるシンプルな名前。その名前を頭の中で転がすと、色々な感情が湧き上がってきます。シンプル過ぎる名前を茶化したくなる気持ちは照れ隠し。彼は本当は、美しい響きを持った君の名前が大好きでたまらないのでした。
もしかしたら、いやきっと、客観的に見たら何でもない普通の名前。それでも彼にとっては、この世のどんな名前よりも愛おしい名前。大げさと言われようが、その命名主に感銘を受けてしまうほどでした。これはきっと、愛のなせる業なのでしょう。
君と出会ったことで、彼は生きることの意味を見出したのでした。彼は、それまでの世界の片隅で一人震えていた日々は変わり始めました。大好きな君に夢中になって、君と二人だけの世界で生きていく。彼は、そんな未来を描き始めていました。
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3. 臆病すぎた愛
彼は、君のために全力で生きてきたつもりでした。事実、彼が思いつく限りの全てを君に捧げて来たのです。自分の献身は、君の悲しみを必ず埋める。彼はそう確信し、君にそんな約束までしたのです。ただ実際、事はそうは運びませんでした。
今振り返ると、彼の献身には歪みがあったのです。彼もまた、君と同じく世界の中で傷を抱える人間。彼は心のどこかに傷物の仲間を見つけた気持ちがあり、その仲間と傷をなめ合い、閉じられた世界の中で生きていくことを望んでいたのですから。
そんな彼はある意味、やっと見つけた仲間、君のご機嫌伺いを続けていたのです。それが、君の望みであると信じながら。何故なら、ノーのない世界は彼自身の望みでもあったからです。ただ結局のところ、それは君の望みではありませんでした。
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4. ナサケモノ
彼は今、己の過ちにハッキリと気づいていました。そして、このままでは二人の関係もじきに終焉を迎えることも。君が望んでいたのは、二人の世界に籠って傷を舐め合う日々ではなく、心を寄せ合って世界の風を身に受ける、前向きな日々なのです。
そんな日々は彼にも冒険になりますが、彼が君との未来を望むのならば、彼も成長していかなくてはなりません。目を背けたくなるような自分も自分。それを認めずして、成長はありません。彼は、放置してきた様々な自分の欠片を拾い上げました。
君を救うという思い上がりを離れた愛も、その形を変え始めていました。ようやく気付いた、純文学的な恋とは似ても似つかぬ生々しくドロドロの恋心。もう手遅れかもしれませんが、彼は「ナサケモノ」として、この感情の迸りを君に伝えたいのでした。
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さいごに
曲を通じて、「ナサケモノ」が持つ意味が変わっている気がします。初めは、自分の思い込みで悦に浸っていた状態を表すネガティブな意味。そして、最後の方は人間のケモノ性を認め、感情を取り繕わずにさらけ出す勇気を表すポジティブな意味ですね!