「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「鈴虫を飼う」は、スピッツの2ndアルバムに収録された、重厚な演奏と文学的な歌詞が織りなす世界観が楽しめる傑作です!
この記事では、そんな「鈴虫を飼う」の魅力を語ったうえで、この曲の歌詞が意味する世界を、独自の視点から具体的に考察します!
「鈴虫を飼う」とは
「鈴虫を飼う」は、ギターの三輪さんが作曲した楽曲です。私としては、三輪さんが作った曲の中では、この「鈴虫を飼う」がダントツに好きですね。もちろん、草野さんがつけた歌詞も奥深くて繊細で、最高の一言に尽きます。
曲のモチーフが鈴虫という儚い存在であることもあって、かなり雰囲気のある楽曲だと感じています。その意味でいうと、この2ndアルバムではなく、デビューアルバム「スピッツ」に入っていた方が、しっくりくる気もしていますが、どうでしょう?
曲名 | コメント | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | 鈴虫を飼う | 儚げバラード |
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「鈴虫を飼う」の印象
「鈴虫を飼う」は、独特の奥深い世界観を持つ楽曲。初期スピッツが描く文学的な世界を代表する楽曲の一つだとも言えるかもしれません。そんな「鈴虫を飼う」の楽曲としての魅力を、以下の3点から語ってみます!
1. 演奏について
全体としては、ロックバンド的な重厚感を感じるサウンドではないかな、と感じています。演奏時間が5分に迫る曲と言うこともあり、かなりの存在感を感じています。テンポもミディアムですから、曲の世界にどっぷり浸かるという感じですね。
演奏では、ベースプレイが特に印象的です。Aメロでは、軽快にリズムを刻む感じですが、サビ前のBメロでは、少しぼやけた感じに音が伸ばされるのです。このぼやけた音は、連動する歌詞で歌われるモヤモヤした感情と良くマッチしていますね。
また、曲のイントロとサビでは、楽器は不明ですが、何かが細かく打ち震える、繊細で美しい音色を聴きとることが出来ます。この音色は、羽を震わせる鈴虫の鳴き声を表しているのでしょう。寂しさと幻想的な雰囲気を感じさせる音色ですね。
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2. ボーカルについて
この曲のボーカルは、独特の雰囲気がありますね。曲の歌詞が描く、切なく繊細な世界観は、こういった愁いを帯びた力感のないボーカルが最もよく合うでしょう。サビの高音も、美しさと儚さを両立した物になっています。
そんなボーカルは、歌詞の世界を膨らませる物ですね。飼育箱に入れた鈴虫をぼんやりと眺めながら物思いにふける主人公の姿が浮かんで来ます。寂しげな部屋の風景と、そこにいる主人公の繊細な心の動きも、伝わってきますね。
聴きどころのラスサビでは、切ない気持ちを歌い上げる歌唱になっています。憂いを含み、ポツポツした独り言にも聴こえるメロとは対照的です。また、ラスサビの終わりの歌唱に、小さい「ぁ」が入る部分にも、主人公の切ない気持ちを感じています。
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3. 歌詞について
この曲の一番の魅力は、やはりその歌詞でしょう。この曲のメロディーに、これ以外の歌詞は考えられません。人が作ったメロディーにもこれだけの歌詞を乗せて、見事なスピッツワールドを構築できる草野さんは、天才的だと言わざるを得ません。
ところで、この曲のテーマは、「儚いものたち」ではないかと感じています。全ての生き物の生は、大小の差はあれども、「鈴虫の生」のように須らく儚い物。生命の終焉をも描くこの曲からは、「全ては泡沫の夢」と言った観念を感じています。
ただ、この曲の主題は悲観論では無く、懸命に生きることの美しさでしょう。泡沫の生でも、小さな羽を懸命に震わせる鈴虫の姿がその象徴。「鈴虫を飼う」では、鈴虫の儚くも美しい生涯描写を通じ、懸命に生きる美しさが描かれている気がしています。
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歌詞の世界を考える
ここからは、「鈴虫を飼う」の歌詞を追いながら、その歌詞が描く世界とその意味を考えていきます。そんな今回の曲解釈のテーマは、「儚い命」としてみました。そんな今回のテーマを語るために、以下の4つのトピックを用意してみました!
1. 月明かりの世界
この曲は、歌詞を素直に読めば、主人公が天使のような君のことを思い出し、その天使への淡い想いを歌っていると考えるのが妥当です。しかし私は、全く異なる解釈をしてみます。私にとって、この曲に登場する主要人物は、主人公ひとりだけです。
私は「天使」を、秋の空に浮かぶ美しい月だと考えたのです。全てを優しく照らす清廉な光を放つ天空の球体は、彼の憂いを帯びた物思いにすら優しい光を当ててくれます。そんな月は、彼にとっては天使も同然だったのではないでしょうか。
この解釈を前提にすると、鈴虫に関する歌詞にも一定の説明が可能だと考えています。彼が鈴虫を預かったと表現しているのは、本来は、その天使の光の下でその生を全うするべき命を、彼の部屋に持ち帰ったことを意味しているのではないでしょうか。
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2. 主人公の日々
主人公の日々は、充実しているとは言えないでしょう。それを示唆する要素は、歌詞中に多く見ることが出来ます。例えば、彼が眺めている無色の世界、地面に吐き捨てられたガム、そしてサビで繰り返される孤独の描写。これらは、その好例だと言えます。
彼の世界に色がないのは、彼自身に「生きている充実感」がないからでしょう。また、そんな世界に適応していく自分に、愛想笑いをしている様子も描かれています。そんな姿勢で生きる彼は、霧に包まれた夢の中を彷徨っている気分なのでしょう。
また、乗換駅のくだりでは、彼が「とある人の助言」に従う様子が描かれます。私は、この人は、世間一般の人だと感じました。彼は、トイレの個室に入っているとき、たまたま外から聴こえて来た処世術の発想に従ったのかもしれませんね。
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3. 主人公の願い
そんな彼には、胸に秘めた想いがあるようです。1番のメロでは、彼に会いたい人物がいることが歌われています。また、その人物は、真面目な雰囲気を持っているとされています。私は、彼が会いたい人物は、過去の彼自身ではないか、と考えました。
彼の現状を考えると、彼の世界の住人の助言に従っている描写があるほか、世界に適応していく自分に対して、その場しのぎの愛想笑いをしている描写もあります。彼は、世界の圧力に押されて、本来望まない姿へと自分を変化させているのです。
世界の掟に適応した彼の世界は、無色です。しかし、昔の彼の世界には色があったに違いありません。彼は、そんな世界を思い返し、もう一度その色が見たいと思っているのではないでしょうか。流されるのではなく、自らの足で真剣に歩む日々に戻って。
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4. 鈴虫を飼う
そんな彼は、天使の光の下から鈴虫を預かって、それらを自宅へと持ち帰ります。彼は、ぼんやりと、その鈴虫たちの生を眺めていることでしょう。十の小さな生命は、それぞれ懸命に小さな羽を震わせ、美しい音色を奏でているようです。
しかし、鈴虫の生は儚いもの。2番のメロでは、彼らの体がバランスを失う描写が出てきます。これは、その鈴虫が一生を終えたことを示唆してるでしょう。曲内での時間経過は僅かなものでしょうが、彼の預かり物は、もう天へと帰っていったのです。
しかし彼は、その抜け殻から目を離すことが出来ないでいます。鈴虫たちは、短い生を懸命に生きたからです。彼は、鈴虫たちがこの世に何かを残したと感じているのでしょう。では、彼自身は、彼らのような充実した生を送っているでしょうか?
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さいごに
いかがでしたか?この曲の解釈に月を引用してきたのは、私には全くもって取って付けた解釈ではないのですが、貴方にとってはそうではないかもしれません。感性は人それぞれですが、だからこそ色々な解釈が出来て面白いですね!
「2ndアルバム、「名前をつけてやる」を語る」も、ぜひご覧下さい!