ミックスボイスは、万能の声ではありません。全ての発声は、一長一短。ミックスボイスもまたしかりです。
このことを理解していないと、自分のミックスボイスに無理な課題を課し、発声バランスを崩しかねません。
ミックスボイスに「出来ること」と「出来ないこと」を知り、適切なゴールを設定しましょう!
声の性質を知る
SLSの様な「ミックスボイス育成メソッドに何ができるか」を議論する前に、「そもそもミックスボイスに何ができるのか」を考えてみましょう。
まずは、「裏声」、「ミックスボイス」、「地声張り上げ」という3パターンの発声を抜き出した上で、それぞれの性能について、次の表にまとめてみました。
正しい裏声 | ミックスボイス | 地声(張り上げ) | ||
1 | 声の強さ | C(最低) | B(普通) | S(最高) |
2 | 声のツヤ | C(最低) | S(最高) | B(それほど) |
3 | マイク乗り | C(最低) | S(最高) | B(それほど) |
4 | 声の持久力 | S(最高) | S(最高) | C(最低) |
5 | 操作性 | B(普通) | C(最低) | S(最高) |
6 | 成長可能性 | S(最高) | S(最高) | C(最低) |
「正しい裏声」について
声への評価
残念ながら、六つの項目のうち、三つの項目で最低評価となりました。「正しい裏声」の音色や音楽性は質が低いため、仕方がありません。
正しい裏声は、持久力は高いですが、そもそも声自体の魅力に欠けるためあまり意味があるとは言えません。では、正しい裏声には魅力が無いのでしょうか?
勿論、そんなことはありません。この声には、貴方の音楽ライフを良い方向に激変させてしまう可能性、つまり爆発的な成長性があります。
声との向き合い方
しかし、「正しい裏声」は、練習を積み重ねていくことでミックスボイスという新しい形に昇華させることが出来ます。従って、成長可能性を、S(最高)としました。
従って、この声へ向かい方は、音色には目をつぶり将来性を信じてコツコツ練習する、をお勧めします。
具体的な練習方法は、こちらの記事でご紹介していますので、ぜひご確認ください!
「ミックスボイス」について
声への評価
ミックスボイスが持つ主な欠点は、声量と操作性に関するものです。しかし、ミックスボイスは、それらの欠点を補って余りある長所を持つ、素晴らしい声です。
声量がやや不足する点に関して言えば、「マイク乗りの良さ」で十分にカバーできます。ミックスボイスでは、無駄に力むことなく、声帯を自由に振動させるため、共鳴による増幅を稼ぎやすく、ツヤのある声となり、マイク乗りも良くなります。
もう一つの欠点は、その操作性に関するものです。つまり、ミックスボイスは制御が大変難しい声だという事です。こればかりは、訓練を続けるしかありません。
声との向き合い方
ミックスボイスの訓練は、終わりがありません。ひたすら自分の体と向き合い、最適な力の入れ方や共鳴のさせ方、息の回し方などを探っていく必要があり、その再現率を高めていく必要があります。ひたすら、練習あるのみです。
辛い道のりに思えるかもしれません。しかし見方を変えれば、ミックスボイスには多くの可能性が秘められているとも言えます。「ミックスボイスで出来ること」を完璧に再現できれば、卓越したシンガーになれるでしょう。
「地声(張り上げ時)」について
声への評価
地声そのものは、歌声の音色を決定する非常に大切な声です。カッコいい声、迫力のある声にもしやすく、多くのシンガーが最初に目をつける声だと言えます。その意味で、その声量と操作性については、S(最高)としました。
声との向き合い方
喚声点より上では聴き心地の悪い声になりがちです。「喉絞め」「ハイラリ(喉上げ)」を伴い、細く深みもなく直線的な声になってしまうからです。
また、音が届かずにフラットする可能性もありますし、何より苦しそうに聴こえてしまう所が致命的です。苦しそうに聴こえる声を聴きたいリスナーは少ないでしょう。
地声張り上げで歌えていると思っても、録音してみると悲惨な声という事も良くあります。過去の私は、まさにそういう状態でした。力任せに声を張り上げるのは、先がないばかりか声帯にダメージを負う可能性もありますので、早めに卒業しましょう。
さいごに
ミックスボイスは、パワーでは地声張り上げには劣ります。また、そのコントロールも大変に難しく、体の些細な変化が声に影響する、ある意味では扱いにくい声です。
しかし、ミックスボイスには、多くの長所もあります。独特の響き、柔らかさ
声の奥行き。これらの特長が、聴き手に対し、聴き心地の良さを提供してくれます。
全ての発声は一長一短です。だからこそ、自分の目標とする声をしっかりと見定めたうえで、どの声を練習するべきかしっかり考えましょう。