「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「紫の夜を越えて」はスピッツの第44thシングル。スピッツの魅力が詰まった、私たちに優しく寄り添う名曲だと感じています。
この記事では、そんな「紫の夜を越えて」の魅力を語りつつ、歌詞の意味も考察。小さな光を集めて変革に挑む青年の物語を考えました!
「紫の夜を越えて」とは
「紫の夜を越えて」は2021年に発売されたスピッツの44thシングルで、とある報道番組のエンディングテーマとしても起用された楽曲です。思いがけぬ事態で停滞した世界で困難に直面した私達に寄り添い、前に進む活力源となる曲だと感じています。
曲名 | コメント | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | 紫の夜を越えて | 心を温める |
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「紫の夜を越えて」の印象
「紫の夜を越えて」は、個人的な分類では「励まし三銃士」の一員です。本曲、「猫ちぐら」、「大好物」の3曲には、発売時の大変な世界情勢を踏まえた励ましを感じるのです。以降では、そんな「紫の夜を越えて」の魅力を以下の3点で語ります!
1. 演奏について
「紫の夜を越えて」の演奏には、物寂し気な雰囲気と凛とした眼差しを感じています。また、特に一番でメロとサビのメリハリがあり、雰囲気の変化を強く感じます。ただ、サビに入っても爽快な気分を振りまくような雰囲気になるわけではありません。
草野さんは「紫色」に孤独色と感じているようですが、曲が放つ色彩感から、紫が完全に消え去ることはないのです。私的感覚では、紫霧の中で俯き加減のメロと、その霧の中で顔を上げて、凛とした眼差しで霧の果てへと目を凝らすサビという感じです。
具体的な演奏面では、メロに感じる紫色の中心には、イントロのエレキギターが。また、1番のメロは演奏が控えめで、物悲し気な雰囲気を感じます。一方、サビに入ると強さを感じるドラムに引っ張られるように、勢いと強さが生まれていますね。
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2. ボーカルについて
「紫の夜を越えて」の歌詞は、私たちに寄り添って優しく温めてくれるものですが、そんな歌詞を歌うのに、今の草野さんの声はベストマッチでしょう。ハスキーで深く優しく、そして輝く声で歌われることで、曲の魅力が最大限に引き出されているのです。
そんな「紫の夜を越えて」のボーカルは、長い活動を経て来たからこそ可能な歌唱だと感じています。それには、よりハスキー色を強めて変化した声質のことだけではなく、音楽活動によって多くの人々の心に潤いを届けて来たという事実も重要です。
多くの人々の心の中に大切な存在として刻まれ、多くの興奮や感動を届けて来たスピッツ。その背景があるからこそ、曲が持つ優しい励ましがこの上ないの力を持つのだと感じるのです。これまでの集大成とも言えるボーカルは、本当に素晴らしいですね。
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3. 歌詞について
先述したように、私にとっての「紫の夜を越えて」は励まし三銃士の一員。ただ、その励ましは、一方的に元気を押し付けるような形ではなく、私たちの困難にそっと寄り添い心を温めることで、私たちの心の中に自発的な活力を生み出す形で行われます。
私たちに呼びかけるように繰り返されるサビ冒頭の歌詞も、その好例だと言えるでしょう。私たちはあくまで、スピッツと一緒に「紫の夜を越えて」いくのです。もっとも、仮に命令形の歌詞だとしても、それはそれで味があって良いとは思いますがね。
集大成とも感じる曲は、歌詞にもスピッツらしさを感じます。強くはないくせに反骨心はある主人公と、彼が共感出来ない世界の在り方、そして大切な君との絆。これらのいずれを取ってみても、スピッツの歌詞によく登場する要素だと感じています。
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歌詞の世界を考える
ここからは、「紫の夜を越えて」の歌詞を追いながら、その歌詞の意味する世界を考えていきます。今回の考察テーマは、「小さな光を集めて」としました。なお、そんなテーマを補足するトピックとして、以下の4つを準備してみました!
解釈は私の感想に過ぎず、全くもって他人に押し付けるものではありません。また、作詞意図に沿った「正解の解釈」より、私の感想が優先されます。なお以下で、私の解釈のスタンスをまとめています!
1. 考察の前提
先述したように、「困難克服」が歌詞の大テーマでしょうが、ここではより具体的に歌詞を見ていきます。私が曲の歌詞に感じるのは、現実の惑星と理想の惑星の対比です。曲の主人公は、辛い紫色の現実世界を越え、優しい理想の世界を目指すのです。
現実世界は、人間的香りのない無機質な正義が闊歩する場所。それは例えば、手を取り合う絆より、対決と勝利を優先する正義。そして勝者の報酬である刹那的な快楽は、世界中に存在する掟のしもべを通じてばら撒かれ、人々を熱狂させています。
一方、彼が憧れる理想の世界とは、君から聞いたことがある世界。世界が勝者と敗者という形で敵対的・従属的に区分されたり、全てが画面越しに無機質に進むのではなく、利害関係ばかり見るのを止め、手と手を取りあう優しい世界であるとします。
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2. 現実と戯言
現実世界は、右も左も欲望だらけ。街中のスクリーンでは煌びやかな世界や物質的な豊かさが映し出され、人々はそれらを手に入れようと躍起になっています。彼らは、喧伝された成功を手にするためなら、他人がどうなろうと知ったことではないようです。
そんな世界の中、彼は世界に抗って憧れを追ったこともありました。ただ、凡人にすぎない彼は、世知辛い現実の壁に跳ね返され、その憧れが世間知らずの戯言だと教えられたのでした。以来、彼は傷を増やさぬように、ただ身を縮めて生きてきました。
ただ、そんな彼に変化が。その切欠は、君が語る優しい世界でした。初めは現実を知らない戯言とも思いましたが、近頃の彼はその世界が気になるのでした。少なくとも、優しい君の在り方は、この現実ではなく優しい世界の流儀を体現していました。
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3. 旅立ちの時
世界の在り方に本心では共感出来ず、いつも孤独を感じていた彼。その癖、誰かが傍にいると無性に一人になりたくもなった彼。そんな我儘を繰り返した困った彼でしたが、君への想いは首尾一貫としたもので、いつも君と一緒にいたいと感じるのでした。
その身を持って、掟に逆らうのは無理と学んだはずの彼も、君が語る世界を信じたいのでした。そう、掟が捨てろと命じた憧れは、彼自身気づかない所で続いていたのです。今こそもう一度、現実に立ち向かうとき。一人ではなく、今度は君と一緒に。
彼はかつて掟の逆風に倒れたものですが、今度は独りではありません。掟の逆風に身を晒すことで、かつて憧れた世界への道が開けるのならば、苦難の道を進むべき。今こそ、長らく続いた掟への隷属を止めて、もう一度彼自身に戻るときなのです。
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4. 紫の夜を越えて
過去の傷跡は変わらずとも、未来は意志の力で変えられる。そして彼は、掟に教えられたような、取るに足らない敗者ではなく、ちっぽけながらも光を放つ一人。その光は弱くとも、他の誰の光とも違う、唯一の輝きでこの世界を彩る一人なのです。
そして、君もまたそう。そんな二人はこれから、互いの光を混ぜ合って優しい世界を目指して旅立ちます。今はまだ、二人分の小さな光。しかし多くの光が共感してこの旅に加わってくれるなら光は大きくなり、やがてこの世界すら作り替えるでしょう。
掟が否定した憧れを胸に抱き、君と手を携えて優しい世界を目指す。辛い現実の風が二人に吹き付けても、もうその目は瞑らずに。涙に潤んだ瞳でもいいから、勇気を持ってその目を開いて前を向くのです。さぁ、一緒に「紫色の夜を越えて」いこう!
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さいごに
対決、決着、支配と従属。そんな世界の在り方は、人類の終着点ではないはずです。世界が敵対と従属の舞台になるなら、どんな栄耀栄華も空しいだけ。個人的には、「紫の夜を越えて」を聴くと、豊かさや幸せの本質について考えてしまいますね。