「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「裸のままで」は、スピッツの4thアルバム「Crispy!」の中心曲の一つで、シングルカットもされたポップなラブソングです。
この記事では、そんな「裸のままで」の感想を語りつつ、その歌詞が意味する世界も考えます。この曲で歌い上げられる想いとは?
「裸のままで」とは
「裸のままで」は、1993年にスピッツが発売した4thアルバム「Crispy!」に収録された楽曲です。それまでの独自路線を少し離れ、売れ筋を意識したアルバムの中でも、この「裸のままで」には、特に強い期待が込められていたようです。
曲名 | コメント | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | 裸のままで | ポップソング |
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「裸のままで」の印象
「裸のままで」は、メガヒットとはなりませんでしたが、スピッツの魅力を知った後で聴けば、十分なポテンシャルを持った曲だと分かるでしょう。売れる、売れないは運もありますね。そんな「裸のままで」の魅力を、以下の3点から語ります!
1. 演奏について
「裸のままで」の演奏には、1曲目の「クリスピー」と同じくポップさがてんこ盛りです。「クリスピー」が甘すぎるスウィーツだとするなら、この「裸のままで」は、甘さの奥に深みを加えた、洋酒入りスウィーツと言ったところかもしれません。
要所を盛り上げるサックス、優雅なシンセっぽい音色などが、曲に品の良さ、ウキウキ感、そして奥行きを加えています。ロックバンドとしては、このアレンジは少しやりすぎにも思えますが、売れ筋狙いとはこういうことなのでしょう。
演奏における私のお気に入りポイントは、ベースプレイです。スピッツの曲をしっかり聞き出してから、ベースラインに注目することが多くなりました。この曲でのベースも心地よいですし、間奏でのベースソロもカッコいいですね!
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2. ボーカルについて
売れ筋を狙った曲に乗ったボーカルも、大変にポップなものになっていて、草野さんの高音域の輝きを存分に味わうことが出来ます。普通の男性ではまず歌えない音域をラクラクと歌いこなす、草野さんの実力が窺えますね。
私自身も歌好きとしてスピッツの曲を歌いますが、この「裸のままで」は、スピッツの曲の中でも高めの音域設定の曲になっています。特に、ラスサビではhiC(高いド)のロングトーンが登場しますが、これはスピッツでは珍しいことです。
そのhiCのロングトーンは、それまでの発声とは音色が異なり、私には少し裏声よりに聴こえます。草野さんが高音が得意なのは明らかですが、スピッツでhiCまで使う曲は少ないですし、ご自身では適性音域はhiBまでと考えている気がします。
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3. 歌詞について
初期スピッツの世界観は、草野さん・ワールドが炸裂した曲が多く、独特の世界観を持っています。いずれも魅力的な物に感じられますが、スピッツというアーティストが、既に広く認知されているからそう感じる、という面もあるのかもしれません。
実際、初期の草野さんの作る作品は、商業的成功と言う点では芳しい成果を上げることは出来ませんでした。そして、商業的な成功を求めた草野さんが、売れ筋路線の歌詞を選択し、世界観のかじ取りを切ったのが、この「裸のままで」とされています。
ただし、サビのメッセージは直球に思えますが、全体として草野さん節は健在です。後追いファンの私からすると、「裸のままで」の歌詞が特別な異端児のようとは思えませんが、当時の草野さんには、異なる想いがあったのかもしれませんね。
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歌詞の世界を考える
ここからは、「裸のままで」の歌詞を追いながら、その歌詞が意味する世界を考察していきます。今回の考察のテーマは、「僕を変えた君」としました。また、そのテーマを補足するトピックとして、以下の4つを準備してみました!
曲解釈はただの妄想であり、他人に押し付ける物ではありません。この曲を楽しむための私なりの妄想というだけですから、ご容赦ください!単純に、こういう話も当てはまるかもな、というだけの妄想です!
1. 退化する彼
1番のメロの描写によれば、彼は「人間は、例外なく孤独に弱い猿である」という理解に到達したようです。では、この理解において、彼が「例外なく」と考えているのは何故でしょうか。彼が、この世の全ての人間を観察したからでしょうか?
私の考えは、異なります。彼がその理解に至ったのは、孤独に震えるはずがなかった「誰か」が、孤独感に苛まれるようになってしまったからではないでしょうか。そしてもちろん、ここでの「誰か」とは、彼自身を指しています。
そんな彼は、これまでは普通だと思っていた部屋の寒さに耐えられなくなってきたのでしょう。彼が唇を噛みしめているのも、彼の孤独な心理状態を表しているに違いありません。冒頭の歌詞にあるように、彼は部屋を抜け出していきます。
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2. 世界の掟と嘘
世界は、世界の掟が敷いたレールで埋め尽くされています。例えば、人間の在り方に関するレールもその一つ。人間は皆、成長・進化と呼ばれる一方通行のレールの上で、精神的未熟さを克服していくというのが、そのレールがのたまう真理です。
寒い部屋を飛び出した彼は、そんな世界の掟を見つめています。その掟によれば、世界には、如何なるエラーも存在してはなりません。そして、彼が感じる孤独感もエラーの一つです。しかし、彼の感じる孤独は、本当にエラーなのでしょうか?
彼にすれば、自分が感じた部屋の寒さは真実です。彼は、世界の掟と自分の真実の間に、矛盾を抱えてしまいました。また、その掟によれば、君を想って心を乱すこともエラー。しかし彼は、君がエラーだとは、どうしても思えないでいます。
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3. 神様を追って
いつでも冷静にレールに沿って進み、成長を続ける賢き生物。そんな、世界の掟が規定する人間像が嘘だったと気づいた彼は、彼にそう教え込んだ存在に疑惑の目を向けます。その存在とは、世界の掟を作った存在、「この曲での神様」です。
彼は、成長という名のレールが命ずるままに、これまで無駄な感情を手放してきました。最近取り戻した孤独を感じる心も、そのうちの一つでした。そして、今の彼にとって、手放してきた感情は未熟の象徴ではなく、もっと大切な何かです。
世界の嘘を見抜いた彼にとって、その世界は薄暗い世界となりました。彼は、その世界にぼやけて響く説教の声を頼りに、神様の下を目指します。彼には、相手を傷つけるつもりはありませんが、手放してきた宝物は返してもらうつもりです。
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4. 裸のままで
多くの感情を取り戻して退化した彼は、君と同じ世界に立つことが出来たと感じています。以前、君が彼に気づいてくれなかったのは、実は二人が違う世界にいたからかもしれません。しかし、彼が退化を遂げた今、二人は同じ世界に立ったはずです。
世界の掟が敷いたレールの上を歩いてきた彼。しかし今、彼が歩もうとする先にレールなどありません。彼は、愚かな猿として、けもの道を往くことになるのです。しかし、愛する君がそうしている以上、彼も喜んで後に続いていくのです。
彼は、それまで止まっていた彼の時間が動き出したことを感じているようです。そして彼は、動き出した新しい世界の中で、「僕はここにいるぞ」と懸命にアピールを始めるのです。今すぐにでも君に気づいて欲しい、という強い願いを込めながら。
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さいごに
以上が、私にとっての「裸のままで」の解釈でした。念のため言っておきますが、この解釈での「神様」は、実在する存在を示している訳ではなく、あくまで曲の中の空想としての神様を指しています。いかなる他意もありませんので、ご理解ください!
「4thアルバム「Crispy!」を語る」も、ぜひご覧下さい!