スピッツの曲

スピッツの「遥か」の魅力を語る。「普通」に注目し、歌詞考察

「遥か」のイメージ
こんな記事

「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。

今回の「遥かは、スピッツの10thアルバム「三日月ロック」に収録された幻想的なバラード曲です。なお、「遥か」には、シングルverとアルバムverの二種類がありますが、今回は後者をレビューします。

この記事では、そんな「遥か」の魅力を語り、歌詞の意味も考えます。「普通」「愚か」の二つの概念を念頭に、物語を考えました!

「遥か」とは

「遥か」は、スピッツが2002年に発売した10thアルバム「三日月ロック」の収録曲。前曲の「エスカルゴ」は、爽やかなスピッツロック曲でしたが、この「遥か」は、前曲とは対照的な雰囲気を持った、優しく美しいラブバラードですね。

曲名曲調一般知名度お気に入り度
1遥か大作バラード
「遥か」の持つ幻想的かつ光に溢れたイメージ

1. 演奏への印象

「遥か」の演奏を一言で表すならば、幻想的。そんな曲を象徴するのが、イントロの美しいコーラスで、僅か数秒で聴き手を曲に引き込む魔力を持っています。漂うような高音コーラスを聴くと、優しい白い霧に包まれたような気分になりますね。

「遥か」は、優し気な雰囲気が強く、吹けば飛ぶような儚さを持っている曲です。ただ一方で、優しい低音を響かせるベース演奏に儚さの中の強さを感じるのも確か。「遥か」は、美しいだけでは終わらない、確かな強さを感じる曲なのです。

「遥か」のボーカルも素晴らしく、魅力的な輝きを放っています。ボーカルにも儚げな雰囲気とともに、確かな強さも感じます。また、演奏が静かになってボーカルが際立つラスサビ前や曲のラストでは、ノビのある高音ボーカルが美しいです!

「遥か」が持つ幻想的なイメージ

2. 個人的な想い

「遥か」には、生命の旅を思わせるPVが制作されています。その中では、若い女性が空中に出現した渦から吐き出された赤い林檎を手に部屋を出て、エレベータで上階へと上がる中で、出会ったスピッツメンバーと物々交換をしていく姿が描かれます。

PVの最初で林檎を吐き出す渦には、生命輪廻の渦を感じますし、色鮮やかなリンゴがその渦から飛び出るのは、生命の誕生を思わせます。彼女の目覚めは生命の目覚めであり、エレベータで上階へ向かうのは、人生の階段を上ることだと感じています。

また、彼女が持ち運ぶ物は、彼女の魂を象徴しているでしょう。最初は汚れなき鮮やかな林檎を手にしていた彼女ですが、徐々に自由を奪われ、欲物に捉われ、最後に悟りに達するも、命尽きて先へ進めなくなり、汚れ無き魂を次の彼女に繋ぐのです。

PVに出てくる輪廻の渦のイメージ

 

歌詞の世界を考える

ここからは、「遥か」の歌詞を追いながら、歌詞の意味する世界を考えていきます。今回の考察テーマは、「普通という言い訳を捨てて」としました。また、そのテーマを補足するために、以下の5つのトピックを準備してみました!

曲解釈は私の想像であり、他人に押し付ける物ではありません。ただ、出来る限り想像の根拠が提示できるように、歌詞とリンクさせながら進めていきます。私の想像を楽しんでいただけると、嬉しく思います!

普通の概念のイメージ

1. 考察の前提

「遥か」は、先述のPVの影響もあり、「生命」というテーマを強く感じています。そんなこの曲の解釈では、自らその生に幕を引く物語と捉える向きもあるようですが、私としては逆の解釈、与えられた生を悩みながらも懸命に生きる命を感じています。

「三日月ロック」が、2001年にアメリカで起こった悲しい事件を踏まえた作品であるという経緯から言っても、暗い物語を当てはめるのは違和感を感じますし、それが相応しいとは思えません。私の魂が、「遥か」はポジティブな曲だと訴えるのです。

そんな私は「遥か」を、普通に甘んじて抑制的な掟に従って生きていた主人公が、君との出会いで普通から離れ、極めて愚かな、しかし温かい存在に戻る物語と感じています。以降では、そんな主人公の温かな退化の物語を考えていきます。

私は、興味深いPVで描かれること全てが、歌詞にリンクしているとは考えていません。そもそも歌詞の主人公は男性と考えていますが、PVの主人公は女性ですね。ただし、どちらも「生命」への意識を感じるのは事実。以降の解釈でも、生命の輝きをテーマとして、解釈していきます。
曲に感じる清純なイメージ

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2. 先細りの日々

世界を渡るなら、ありのままの自分でいることは出来ません。世界で一人前になるためには、世界の掟と同化した存在になる必要があります。そして、掟が求める姿と、本当の彼の姿には乖離があり、彼はその狭間で揺れながら生きてきました。

彼は、掟の無視は出来ませんが、掟に染まりきったわけでもないのです。彼には未だに、幼き日への想い、夏の野原を自由な心で駆けた素朴な日々への想いがあります。あの頃の不格好な想い出は、今でも色鮮やかに彼の心に残り続けています。

ただ、彼が胸に抱く「懐かしい日々」と、世界が求める「一人前の日々」は、対極の存在。彼は、ときには掟の命令に反発しながらも、結局は流される日々を送ってきました。でも、これはいたって普通のこと。だって、誰しもが同じでしょう?

本当の自分を捨てきれず、胸の憧れを覗き見ながら生きてきた彼。しかし、過去に生きることが出来ない以上、現実に適応するほかありません。そんな彼が歩むことになる道は、かろうじて繋がってはいるものの、細く暗い小道です。彼の心もまた、徐々にすり減っていきました。
彼が歩む細く辛い道のイメージ

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3. 全てを忘れて

そんな先細りの日々の中、彼には自身の生き方を大きく変える転機が訪れました。それが、君との出会い。掟の世界に存在するとは思わなかった、柔らかい純白の心を持った女性との出会い。そんな君が放つ雰囲気は、胸の中の日々の輝きに似ていました。

自由で優しい君の輝きを見た彼は、世界の掟に従って自分を曲げることが、必ずしも宿命ではないと知りました。自分を曲げるやるせなさを胸の想い出で当て布して塞いできた、誤魔化しの日々に終止符を打ち、本当の自分に戻る時が来たのです。

本当の自分に戻ったら、掟に目を付けられるかもしれない。そう思うと、生まれ変わることを恐れる気持ちもありますが、彼は掟から離れていきます。もう、嘘を混ぜた癒しの日々は必要ありません。彼は、それまでの欺瞞の日々を捨て、旅立ちます。

彼は掟が作った自分を忘れ、もう一度、何も知らない愚かな自分に戻りました。そんな彼の胸には、掟が一笑に付すような臭いセリフが浮かんで来ます。彼の胸を占める強い感情は、溢れんばかりの君への愛でした。彼という存在の全てが濃縮された愛情が、胸の内にあったのです。
彼の心に咲いた香り立つ愛情のイメージ

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4. 不安定な道を

彼は今、君と再会を約して別れ、一人で歩いています。彼の隣に君の姿はありませんが、二人を包むはずの空を見上げれば、君と繋がっていると強く感じることが出来ます。彼は、愚かで自由な心を抱きつつ、不安定で険しい道を進んでいます。

今の彼が歩む道は、バラ色の道ではありません。その道は、崩れる可能性もある不安定な道ですし、自由な心がその道を楽に駆ける曲芸を授けてくれるわけでもありません。こと安定については、かつて歩いた掟の細道とは比べるべくもないのです。

ただそれでも、不安定の道を往く彼は、生きる充実感に包まれていました。今の心で過去の日々を振り返ると、彼の人生帳には長い空白のページがあると感じられるほどです。しかし、これからの日々で、十二分に埋め合わせが出来るはずです。

不安定な道を進んでいるはずの彼の胸の中には、とある愚かな感情が浮かんでいます。一人前であるべき青年が口に出すのは憚られるような感情。掟がその感情を見つけたらば、顔をしかめることは間違いありません。今の彼の心には、「幸せ」のさざ波が広がっているのですから。
不安定な道のイメージ

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5. 遥か

愚かな心を抱き、ふらつきながら不安定な道を進む彼。彼の足取りは、未だもって危なっかしいものです。彼にはもちろん、その道を軽業師の如く駆け抜けることなどできないままです。しかしそれでも、彼の心は明日への希望に満ちています。

今の彼には、今日が駄目でも明日ならきっと大丈夫と思えるのです。掟ならば、これを愚かな妄想と呼ぶでしょう。しかし彼は、その掟から離れたのです。そんな彼には、根拠のない明日への希望も、積み上げたなら夢と呼ぶべきものになるのでした。

彼は今、遠く離れた君を想い、空を見上げます。姿は見えずとも、君もこの空の下で懸命に日々を生きていると感じられます。二人はそれぞれの夢を抱き、背中の夢の翼で飛ぶのです。どこと言うこともなく、ただ遥か彼方へ。力一杯羽ばたいて。

私にとっての「遥か」は、世界の求める型にハマって生きるのが普通だと自分に言い聞かせて来た主人公が、自由の風を感じさせる君に出会って、普通を捨てて自分らしく生き始める物語。彼と君は、同じ空の下でそれぞれの道を往きます。遥か彼方で、二人はまた巡りあうでしょう!
二人が見上げる空のイメージ

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さいごに

「遥か」では、主人公から君への愛が歌われていますが、私が「遥か」の中心に感じるのは「生命の輝き」というテーマです。もちろん、恋愛もその大事な一要素ですが、より重要だと感じる「自分らしく輝く」に主眼を置いて解釈しました!

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