「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「しにもの狂いのカゲロウを見ていた」は、インディーズ時代のスピッツの楽曲。また、1999年の「花鳥風月」に数曲追加して2021年に発売された「花鳥風月+」に、追加収録されています。
以降では、「しにもの狂いのカゲロウを見ていた」の魅力を語りつつ、歌詞も考察。嘘に別れを告げた青年の物語を考えました。
「しにもの狂いのカゲロウを見ていた」とは
「しにもの狂いのカゲロウを見ていた」は、インディーズ時代に制作したCD「ヒバリのこころ」に収録されている楽曲。初期スピッツらしい刹那的な歌詞が興味深い一曲です。曲のメロディもキャッチーで、草野さんここにあり、という感じですね。
曲名 | 曲調 | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | しにもの狂いのカゲロウを見ていた | 軽快 |
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1. 演奏への印象
曲の演奏に感じるのは、疾走感を伴った爽やかで軽快な雰囲気です。ただ、そのサビには演奏が弱まりボーカルが際立つパートがあるため、メリハリも感じます。この曲構成は、同じくインディーズ曲である「353号線のうた」と重なるものがありますね。
私がこの曲で気になることの一つが、間奏のギター。スピッツにはアルペジオのイメージが強いですが、間奏に登場するギターソロは指が忙しい速弾き。とてもカッコいいですが、スピッツの曲でこれほど速弾きをする曲は珍しいのではないでしょうか。
また、この曲はサビ前でhiBの高音が登場しますが、そこで力み方も印象に残っています。少なくとも、「収録ボーカル」では後にも先にも、これほどの力みを感じる曲は記憶にありません。珍しい草野さん像を味わえる点でも、興味深い一曲ですね。
2. 個人的な想い
スピッツはデビュー後、暫らくヒットには恵まれなかったそうですが、デビュー前に作られた「しにもの狂いのカゲロウを見ていた」は尖った良曲ですね。若者らしい勢いあるボーカルと軽快な演奏はもちろん、その歌詞にも強い存在感があります。
分かりそうで分からない歌詞というと草野さんとしては本意ではないかもしれませんが、説明的ではない表現は、私の好むところです。奇をてらった感じではなく、繊細さと奥深さを両立した歌詞は、初期スピッツの名作の一つだと感じる私がいます。
また、この曲に顕著に表れたボーカルスタイルはデビュー後は薄れたと感じていますが、歌詞のスタイルは引き継がれていると言えるでしょう。謎めいた言葉で描かれるやや危うい雰囲気は、例えばデビュー作収録の「夏の魔物」にも通ずる気がしますね。
歌詞の世界を考える
ここからは、「しにもの狂いカゲロウを見ていた」の歌詞を追いながら、歌詞の意味する世界を考えます。今回の考察テーマは、「優しい嘘に別れを告げて」としました。また、そのテーマを補足するため、以下の4つのトピックを準備しました!
解釈は私の感想に過ぎず、全くもって他人に押し付けるものではありません。また、作詞意図に沿った「正解の解釈」より、私の感想が優先されます。なお以下で、私の解釈のスタンスをまとめています!
1. 考察の前提
本曲は、初期の曲ということで生命というテーマを色濃く感じるため、今回は大好きだった君に先立たれた青年の物語を考えます。また、彼の嘘を1番サビの内容とし、それは逆説的に、大切な君にその嘘と逆のことが起こったことを示すとしました。
また、曲中の回り道とは、現実逃避的に君を想った日々を指すとします。また、リボンとは何かを結びうるものですが、曲中では彼と過去とを結んでいたものとします。つまり、ラスサビにあるリボンを切る行為は、現実逃避を止める比喩としました。
ただ彼は、意気揚々と新たな旅に出るのではありません。サビにあるように、彼は一人の日々に不安を抱えているのです。また、彼が癇癪を爆発させる様子は、彼の未熟さを示すとします。運命に納得できない彼は、駄々っ子のように振舞っているのです。
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2. 温かなウソ
本心を言えば、彼だって自分の過ちに気づいていました。もう既に、君は旅立ち二度と帰ることはなく、自分は一人取り残された。彼には、それが現実だと分かっているのですから。しかし、その現実はあまりにも冷たすぎるではありませんか。
だから彼は、自分の願望を形にした嘘の中で生きてきたのです。この世界を吹き抜ける風はあまりに冷たく、まだ彼一人では立ち向かえそうにないのでした。そして、温かな嘘の中に飛び込んだならば、彼はいつだって幸せな気分に包まれるのでした。
彼は、世界が黄昏に包まれる頃を見計らい、いつものように優しい嘘の世界の中へと潜っていきました。優しい思い出が彼を導いてくれますから、迷うことはありません。変わらない優しい世界が彼を待っています。いや、まだ変わらないはずの世界が。
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3. 冷たい現実
楽しかった嘘の世界も、もはや長くは持たないのでしょう。これまでは温かな嘘の世界へと姿を変えた彼の妄想は、近頃はただ涙へと変わるだけとなりました。君と一緒にはしゃぐ自分の姿、楽し気な願いは全て涙に変わり、彼の心を揺さぶるのでした。
想い出に浸り、現実逃避をしてきた彼。ずっと現実を見ないようにして、嘘の世界に身を投じて心を閉ざしてきた彼。溢れ出した涙は、そんな彼の心を続けてノックします。この脆い心の扉を開き、現実を受け入れる時が来た、などと言いながら。
彼だって、いつまでもこのままではいられないと分かっています。しかし、今暫らくの猶予をくれてもよいではありませんか。どうして現実は、彼にこれほど非情になれるのでしょう。彼はフツフツと湧き上がる運命への憤りを感じていました。
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4. しにもの狂いのカゲロウを見ていた
少しだけ冷静になり星々から目を離した彼は、街頭に群がるカゲロウたちに気づきました。光に捕らわれ、儚い命を散らす哀れな存在。ただ彼は、そんな哀れな舞いから目が離せなくなりました。何も嘆かず、ただ今この時に全身全霊で存在する姿から。
儚き命を懸命に震わせ、何かを残しては消えていく。考えてみると、全ての命は等しくそんな宿命を背負っているのかもしれません。ただ、同じ命を与えられながら、今を懸命に踊るカゲロウもいれば、自分のように嘘の中で生きる者もいる・・・。
自分がすべきは、壊れつつある嘘にすがりついて現実に唾することか、それとも。いや、考えるまでもありません。彼にはずっと、分かっていたのですから。彼は今、嘘と決別すると決めました。途端に喚き出した弱気な自分を、強く強く感じながらも。
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さいごに
最終的に彼がリボンを切るのは、彼なりに変わろうとする意思の表れとしました。もちろん、これを自暴自棄の行動とすれば、結末は重くなりますね。ただ暗すぎる展開はお好みではない私は、かなり妄想を入れ込んで多少の光を与えることにしました。