スピッツの曲

スピッツ初期の傑作「夏の魔物」の世界を往く。意味深な歌詞が意味することとは?

夏の魔物の世界観のイメージ
こんな記事

「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。

今回の「夏の魔物は、スピッツのデビューアルバムに収録された楽曲で、深読みできる文学的な歌詞と、美しいメロディーラインがその目玉となる、まごうことなき初期スピッツの傑作です。

この記事では、そんな「夏の魔物」の魅力を、歌詞への独自解釈を中心としてお伝えします!「夏の魔物」が意味する物とは、果たして?

「夏の魔物」の基礎情報

「夏の魔物」は、スピッツが1991年に発売したデビュー・アルバム「スピッツ」の収録曲で、アルバム発売の約3か月後に2ndシングルとしてもリリースされています。その際のカップリングは、「ニノウデの世界」だったようですね。

「夏の魔物」は、全12曲を収録するアルバムで、10番目に配置された曲。実質的に、このアルバムにおける一つのピークを作る楽曲だと言っていいでしょう。人気のある曲なので、ミスチルの桜井さんが夏フェスでカバーしたことも知られていますね!

曲名コメント一般知名度お気に入り度
1夏の魔物初期の傑作、聴くべし!
夏の魔物のイメージ

 

「夏の魔物」の印象

「夏の魔物」はスピッツ初期の傑作。草野さんのミュージシャンとしての才覚が、デビュー当時から傑出していたことを如実に示す楽曲になっています。そんな「夏の魔物」に対し、私が感じている魅力を、以下の3つの観点からお話していきます!

1. 演奏について

この曲の演奏の第一の魅力は、演奏から感じる一体感です。ぜひ、ヘッドホンや音の良いスピーカーを使って聴いてください。それぞれのパートが魅力的な音を奏で、それらが一つの姿となって、この「夏の魔物」を生み出していると分かるはずです。

厚みがあって耳に残るイントロの演奏を聴くと、既に曲の世界観が感じられるというか、「夏の魔物」が持つ哀愁漂う世界に一気に引き込まれるような感覚になります。力強く厚みのある演奏は、間違いなくロックバンドのそれだと言えるでしょう。

イントロを形取り、さらにサビの要所で繰り返されるギターリフも最高に魅力的ですが、曲の背後で鳴り続ける細かいアルペジオもお気に入りです。特に、イントロ開始5秒、2回目のギターリフの裏で鳴っているアルペジオが大好きですね!

ライブ版の演奏も素晴らしいです。2014年に開催された全国アリーナツアー、通称「フェスティバリーナ」で映像付きのライブ演奏を楽しむことが出来ます。このライブは、ステージのライティングも含めて素晴らしく、「夏の魔物」の世界が会場中に広がっているかのようです。
an image of live stage

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2. ボーカルについて

初期の草野さんのボーカルは、少年感に満ちています。そして、この曲のテーマは、「未熟な若者の葛藤」。この曲の少年的ボーカルからは、曲の主人公の姿が連想され、主人公の心情が、よりリアルに伝わってくると感じています。

この曲が持つ哀愁を生かすためには、必死な形相で叫びあげるようなスタイルは避けるべきだと思いますが、結構キーが高いため、それはなかなか難しい。この曲をサラリと歌うことが出来る、草野さんの歌唱技術の高さを思い知らされますね。

また、草野さんは淡々と歌い上げるタイプのボーカリストと考えていますが、この草野さんのボーカルには結構、感情が乗せられている気がします。特に、ラスサビの同じフレーズを連呼する部分では、その気持ちが伝わってきますね。

一般的に考えると、淡々と歌うシンガーは売れないでしょうから、デビュー当時の草野さんは自分のスタイルを模索していたのかもしれませんね。一般的な「泣きの表現」ほど強調されてはいませんが、少しエッジの入った歌い始めなど、感情表現っぽく聞こえる部分があります。
an image of singing emotionally

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3. 歌詞について

この曲は、仮に歌詞が平凡であっても良曲として人気曲となったでしょう。それだけ、演奏やボーカルが魅力的だからです。ただ実際は、この曲の歌詞は素晴らしい。むしろ、歌詞こそが、この曲を魅力的にしている最大の要素だと言って良いでしょう。

初期スピッツの歌詞には抽象的な物が多いですが、その抽象的世界観は、「テレビ」のような少しメルヘン・ファンタジーな世界か、この「夏の魔物」のような現実をベースにした文学的な世界かに大別できると感じています。

この曲のテーマについては、先に述べた通り「未熟な若者の葛藤」だと言えるでしょう。その葛藤の対象は、「夏の魔物」。色々と解釈はありますが、「夏の魔物」とは、二人の間に生まれるはずだった新しい命であるという解釈が定説でしょう。

草野さんの歌詞が、文章を生業としている方から賞賛されるのは、決して珍しいことではないでしょうが、芥川賞作家の綿矢りささんも、「夏の魔物」の歌詞を賞賛していました。芥川賞作家まで魅了する、作詞を中心とした独特な世界観。素晴らしいとは思いませんか?
writing novels

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歌詞の世界を妄想する

ここからは、「夏の魔物」の歌詞を追いながら、その世界観が持つ意味を考えていきたいと思います。今回の解釈のキーとするテーマは、「夏の魔物への葛藤」としました。そんな今回の解釈は、以下の4つのトピックで構成してみました!

曲解釈はただの妄想であり、他人に押し付ける物ではありません。この曲を楽しむための私なりの妄想というだけですから、ご容赦ください!単純に、こういう話も当てはまるかもな、というだけの妄想です

1. 妄想の前提

この曲に登場する二人は、恋人関係だと考えています。そして、「夏の魔物」とは、二人が授かったものの、この世に迎えることが出来なかった赤ちゃんだと考えています。君に似ていると描写される「夏の魔物」は、二人の子供と捉えて良いでしょう。

二人は、強い信頼関係で結ばれたカップル。ただ彼は、彼女と将来を共にするとまでは考えていません。単純に、彼は二人の将来を真剣に考えるには若すぎるのです。彼が彼女に向ける気持ちは、愛情と言うより恋心と言った方が適切かもしれません。

「夏の魔物」が、この世に誕生出来なかった理由は、曲内で明示されていません。私は、図らずもそうなってしまっただけと考えています。つまり、「夏の魔物」が消えたのは、二人がその排除を意図した行動を実行したからではない、との解釈です。

二人の年齢を考えるための材料は少ないですが、二人のふらつく様子や、サビでの「幼い」という言葉から考えて、二人は若いと考えて問題ないでしょう。個人的には、大学生くらいの年齢をイメージしています。年齢上は成人だが、まだまだ未熟な二人。そんな感じですね。
夏の魔物に登場する二人のイメージ

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2. 二人の生活

二人の生活は、安定しているとは言えないでしょう。もし二人が安定した生活を送っているのならば、「頼りない細い腕」であったり、「よろつく二人」という描写は、相応しくないからです。彼らは、どちらかと言えば、日影で生きているはずです。

また、歌詞には「ドブ川」が出てきますが、そこには魚も住めないようです。私は、この「ドブ川」を、社会と、それが与える試練と捉えました。つまり、少なくとも彼らにとっては、二人を取り巻く社会は濁って汚れているのではないでしょうか。

また彼らは、その「ドブ川」を幾つも越えていくとされていますが、その際の二人はふらついているようです。この描写は、濁って汚れた社会から彼らに与えられる試練を、かろうじて乗り越えている二人を示唆しているように感じています。

また、二人は何かに追われているように感じていますが、彼らを追うのは「社会の掟」ではないでしょうか。例えば、「適切な環境が整わないうちは、子供を設けるべきではない」。この掟は、常識的な視点で見れば正しい掟ですが、幼い視線で眺めたときは、どうでしょうか?
an image of society they live

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3. 夏の魔物の気配

そんな二人は力を合わせ、安定しているとは言えない日々を乗り越えていきます。二人は裕福ではありませんが、ささやかな幸せは味わっていたはずです。何故なら、その気持ちが幼いものだとしても、二人はお互いに好き合っているからです。

やがて、そんな二人に「夏の魔物」が訪れる気配を見せます。彼女からそのことを告げられたとき、彼は少なからず動揺したことでしょう。「ドブ川」を支配する正しい掟に従うならば、二人はまだ「夏の魔物」に出会うべきではないからです。

2番のサビでは、彼の心情が歌われています。彼は、「夏の魔物」を排除するべきだと考えました。「夏の魔物」を迎えるならば、彼女と一生を共にすることになります。彼女への気持ちはあれど、彼にはまだそこまでの決断はできないのです。

彼が「夏の魔物」を排除するべきと思った理由については、「将来への本気度はあったが、経済的事情がそれを許さなかった」という解釈も成立するでしょう。ただ、彼に感じる精神的な未熟さから鑑みて、どちらかと言うと今回の説の方がしっくり来たので、この解釈としました。
an image of rejection he feels to his baby

 

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4. 煙となりて

彼は、排除の意思を示しましたが、まだ手は下していません。ですが、幸か不幸か「夏の魔物」は、自ら遠くへと飛び去ろうとする気配を見せます。望んでいたはずの展開が訪れたというのに、彼はそこで何故か、今までの気持ちと矛盾した行動に出ます。

ラスサビでの「彼の呪文」とは、「夏の魔物」への願いだったはずです。「やっぱり、いかないで」とか、そんな祈りだったかもしれません。しかし、その呪文が効果を発揮することはなく、「夏の魔物」は、ついにその身を消し去りました

全てが終わった後、彼は一人で自分の心と向き合います。彼の心は、サビで歌われている通り。彼は、「夏の魔物」をその腕に抱きたかったのです。社会の掟に捉われずにいたなら、結末は違ったかもしれません。しかし、今となっては詮無きことです。

彼が従ってしまったのは、正しい掟。二人には、まだ時期尚早だという賢明な判断。ただ、彼はもっと「未熟な掟」に身を委ねるべきだったと後悔しています。未熟な掟とは、「何をおいても愛の結晶を優先し、詳しいことは後で考える」。そんな行動原理だったかもしれません。
an image of the sky I think of when I listen to the song

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さいごに

ところで、この曲を聴くたび、私の頭の中には「妖しいほどに真っ赤に光る夕日空」が浮かんできます。空を染める妖しい赤い光に溶け込んでいく「夏の魔物」が見えるようです。貴方の「夏の魔物」は、どんな色に包まれていますか?

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