スピッツの曲

スピッツの「ホタル」の魅力を語る。「汚れ」の意味に注目し、歌詞も独自解釈

蛍のイメージ
こんな記事

「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。

今回の「ホタルは、スピッツの9thアルバム「ハヤブサ」の収録楽曲。シングルカットもされ、PVも制作されている人気曲で、悲しさの中に決意を感じるような凛としたバラードとの印象があります。

この記事では、そんな「ホタル」の魅力を語り、歌詞解釈にも挑戦します。幻に身を浸して汚れていく主人公は、どんな心境でしょう?

「ホタル」とは

「ホタル」は、2000年にスピッツがリリースした9thアルバム「ハヤブサ」の収録曲。前曲の「ハートが帰らない」は、穏やかさと悲しみを混ぜ合わせたような曲でしたが、今回の「ホタル」は悲しみと決意を混ぜ合わせたような、凛と鈴鳴る楽曲です。

曲名曲調一般知名度お気に入り度
1ホタル悲し気に凛
黒を基調とした凛とした曲のイメージ

1. 演奏への印象

「ホタル」の演奏は、スピッツの様々な魅力を感じるもの。サビから始まる静かな曲の出だしには、アルペジオを主役に据えた美しいスピッツの姿を、ベースに支えられたシンプルなメロに続く重厚な本サビには、ロックバンドスピッツの姿を感じています。

そんな「ホタル」の演奏は、草野さんのボーカルも含め、悲し気な雰囲気が主軸に来る印象ですが、悲しみを受け入れ先へ進む凛とした決意のような感覚もあります。この印象は、上述した「ホタル」の演奏が持つ二つの顔がもたらすものでしょう。

また、演奏面でハーモニカの演奏に言及しないわけにはいきません。間奏部分などの要所で使われるこのハーモニカが、哀愁の香りを放っています。この哀愁とバンド演奏の力強さが相まって、「ホタル」に悲しみを越える決意を感じるのでしょうね。

ハーモニカのイメージ

 

2. 個人的な想い

先述したように、「ホタル」にはPVが制作されています。そのPVの内容は、炭鉱のような場所で、薄汚れた作業服を身に纏ったスピッツのメンバーたちの演奏場面を挟みながら、一人の炭鉱作業員の物語が描かれたものになっています。

私は、このPVでの「演奏場面」は、自分らしく生きることを象徴していると感じ、一方で炭鉱を掘り進めることは、私たちが社会から与えられたノルマをこなすことだと感じています。これら二つを対比的に捉えるのが、個人的な解釈の基軸となります。

また、石化して砕けたギターと、炭坑員が手にした青い鉱石にも、「自分らしさ」と、「規範的な価値」の対比を感じます。私にとっての「ホタル」は、恋愛的要素をモチーフとした、抑圧から脱して自分らしさを追求しようとする青年を描いた曲なのです。

炭鉱のイメージ

 

歌詞の世界を考える

ここからは、「ホタル」の歌詞を追いながら、歌詞の意味を考えていくことにします。そんな今回の考察のテーマは、「儚い幻に身を汚し」としました。また、そのテーマを補足するため、以下の4つのトピックを準備してみました!

曲解釈は私の想像であり、他人に押し付ける物ではありません。ただ、出来る限り想像の根拠が提示できるように、歌詞とリンクさせながら進めていきます。私の想像を楽しんでいただけると、嬉しく思います!

優しい幻のイメージ

1. 考察の前提

私にとっての「ホタル」は「掟からの解放」がキー。PVを含めて考えると、炭鉱に眠る青い鉱石が街の欲望の象徴、PVの最後に彼が装備を捨てて飛び込む母たる海は、彼の自由の象徴、そして彼が捨てた装備が世界の掟を象徴していると感じます。

また、この曲での「君」は、街に溢れた気休めの安らぎではなく本当の幸福感を彼にくれる存在、ひいては、彼らしく生きる勇気をくれる存在です。さらに、同じ対比軸で、曲中の「街」と「君」は、それぞれに対照的な存在だとも考えています。

なお、この曲は主人公視点で歌われていますが、その視点は世界の掟を強く意識したものです。歌詞内で価値が無い物として描かれている物は、世界の掟視点で価値がないのであって、彼が獲得する新視点から見れば、逆に大切な物であるとします。

「ホタル」の世界観には、「一人前の立派さ」と「愚かな自分本位」という対比軸を感じますが、彼の本心が望むのは後者、世界が愚かと呼ぶ自分本位の追求です。今回は「ホタル」を、世界の欲望の渦に身を委ねる日々を脱し、もっと純粋な何かを取り戻す物語として解釈します!
街と君のコントラストのイメージ

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2. 欲望の世界

巨大な街は、常なる前進と成長を義務として、満足することなく巨大になろうとしています。世界は刻一刻と変化し、立ち止まることを決して許しません。人々は、欲望に駆られるままに、街を支配する力を求め、街中で戦いを繰り広げています。

彼もまた、そんな世界を必死に渡って来ました。世界の教え通り、一人前になることを目指して、文字通り身も心も削ってきたのです。そんな世界の教えが、繰り返し彼に伝える助言は、「一人前となり上を目指せ」というものでした。

全ての人間は、世界から山積みのノルマを与えられているかのようです。一人前になって、世界に貢献することは義務であり、それを放棄する者は落伍者そのもの。彼は、その落伍者になりたくない一心で、世界の掟に食らいついてきたのでした。

彼は、世界の教えに共感してきたわけではありません。それでも、落伍者となることを避けるためには、その掟を受け入れざるを得ないのです。無理やりに世界の掟を押し込んだ彼の心は、いつしかカラカラに乾いてしまい、そんな心で歩む彼の日々も、闇に包まれ始めていました。
闇に包まれた彼の日々のイメージ

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3. 微かな残光

世界の掟は、次から次へと彼に要求を突きつけます。あれも出来なくてはいけませんし、これも出来なくてはいけません。ノルマをこなすのは、やはり容易なことではないのです。それでも彼は、それら一つ一つと向き合い続けて奮闘してきました。

何とかノルマをこなす彼ですが、それと引き換えに彼の心は潤いを失っていき、今や、殆ど闇に覆われてしまうまでになりました。世界の掟に従って生きることは、本当に自分にとって重要なことなのか。微かに残された彼らしい心で、彼は考えます。

答えは、「否」。一人前になることが世界の正義であることは、彼にも分かっています。しかし、その正義に反したとしても、心の全てを闇に染めるわけにはいかないのです。彼は、すぐに折れそうな頼りない翼でもって、世界の掟の外を目指します。

彼の心に唯一残った彼らしさが、大切な君を想う心でした。心に浮かぶその想いは、暗闇の中で微かな光を放っています。それは、闇夜に浮かぶホタルの光のように微かな光ですが、失うことができない自分らしさの光でもあります。彼は、行先も決めぬまま、掟から逃れていきます。
闇の心から逃れていくイメージ

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4. ホタル

力強さのかけらもない翼で、よろめきながら飛び立った彼。今の彼に大切なのは、あの掟から離れることであり、胸の中で微かな光を放つ君への想いを守り抜くことです。自分にとって本当に大切なものは何か、彼にはやっと理解することが出来ました。

しっかりと思い出した君の笑顔は、彼の心に潤いを与えてくれました。君が囁いた言葉も甘い響きで脳裏に甦ります。ただ、世界の掟に言わせるなら、彼の胸に宿る光は儚い幻に過ぎず、そんな幻影に身を委ねるなど、堕落そのものでしょう。

ただ、世界の正義からも脱した彼は、掟が胸の光を幻と呼ぼうとも構いません。掟がそれを幻と呼ぶなら、受け入れるだけ。大切なのは名前ではなく、自分がどう感じるか。彼は、掟が何を言おうが、「堕落の光」で身を汚していくつもりなのです。

私にとって「ホタル」は、成長と前進、屈強を至高とする世界の掟に疑問を持った主人公が、微かに胸に残った君を想う光を頼りとして、掟が支持する物とは異なる生き方を模索する物語。掟から見た彼の行動は堕落、汚れるだけの愚行ですが、彼から見れば正反対の行動なのです。
蛍の光のイメージ

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さいごに

PVのラストは、意味深な見方も出来るでしょう。炭鉱から脱出した彼は、全てを脱ぎ捨てて海へと入ったことが示唆されますが、そこに彼の姿は見当たらないのです。ただ私は、悲しい結末ではなく、母なる海との再会、自由との再会と解釈しています!

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