スピッツの曲

スピッツの「ナイフ」の感想。「間違いだらけ」を軸に、歌詞の意味も考察

曲に広がる世界観のイメージ
こんな記事

「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。

今回の「ナイフは、1992年にスピッツが発売したミニ・アルバム「オーロラになれなかった人のために」の収録曲。およそ7分にも渡る曲ということもあって、このアルバムの中心曲だと感じています。

以降では、「ナイフの魅力を語りつつ、歌詞の意味も考察。大切な君を疑い、間違った結論と行動に至った青年の物語を考えました。

「ナイフ」とは

「ナイフ」は、初期のスピッツに特徴的な、儚げで危うい世界観を感じるのに適した一曲でしょう。表面的に同じ気配を感じる曲は、例えば「夏の魔物」や「プール」などがありますが、落ち着いた雰囲気の「ナイフ」が、最も危うさを感じますね。

曲名曲調一般知名度お気に入り度
1「ナイフ」危うい脆さ
曲に感じる怪しげな雰囲気のイメージ

1. 演奏への印象

「ナイフ」という曲には、スピッツの全ての曲の中で最も危うい雰囲気を感じています。ストリングスが目立つ演奏は優雅で美しいですが、意味深な歌詞をなぞる儚げなボーカルによって、その美しさが危うさへと昇華しているように感じています。

ゆったりとしたテンポの演奏は微睡みを感じるものですし、メロの背後でうっすらと広がる音色は、歌詞が描く世界にかかる幻の薄霧を思わせます。また、高音を使わないボーカルもいい意味で曲を平坦にしていて、微睡みが強調される感覚ですね。

ただ、終始儚げな雰囲気で進行していくのかと思いきや、間奏でのストリングスの盛り上がりは優美さと壮大さを感じるもの。そこでは、幻が払われ鮮やかな世界が広がる感覚もありますが、間奏が明けるとまた幻の中に戻るのは意味深に感じますね。

曲の雰囲気のイメージ

2. 個人的な想い

「ナイフ」は、私がスピッツを好きになったきっかけのアルバム「とげまる」のライブツアーで演奏されていたこともあり、私としても結構注目している曲の一つ。演奏時間が長いこともありヒトカラ限定ですが、カラオケで歌うこともありますね。

部屋を暗くしてこの曲を歌っていると、幻の霧の中に迷い込んだような不思議な感覚に捕らわれます。儚く脆い主人公の心情が乗り移ってくる感じとも言えるでしょうか。彼の心を満たすのは無償の慈愛か、はたまた闇か。正直、どちらとも取れますね

ところで、この「ナイフ」は地声では苦しく裏声では弱い中音域を多用するため、雰囲気の再現を考えるなら歌唱難易度は高いと感じます。私は、ミックスボイスが完成したらライブでの草野さんのように歌えるかなぁ、と思いつつ練習していますね。

暗い部屋の中、カラオケで歌うイメージ

 

歌詞の世界を考える

ここからは、「ナイフ」の歌詞を追いながら、その歌詞の意味する世界を考えていきます。今回の考察テーマは、「助けを求める声に応えて」としました。また、そのテーマを補足するため、以下の4つのトピックを準備しました!

解釈は私の感想に過ぎず、全くもって他人に押し付けるものではありません。また、作詞意図に沿った「正解の解釈」より、私の感想が優先されます。なお以下で、私の解釈のスタンスまとめています

主人公の心理状態のイメージ

1. 考察の前提

アルバム1曲目の「魔法」の記事で述べた通り、私は本作を一続きの物語と考えています。この「ナイフ」では、前曲の「田舎の生活」で生じた心の闇が強まり、歪んだ自己犠牲は執着へと変わり、ついには君への不信を抱くに至った主人公の姿を考えます。

君を嘘つきと呼ぶ歌詞は、彼が勝手にそう考えていると解釈します。より具体的には、彼は君が自分を捨てようとしていると感じているとしました。ただその考えは、街で一人で暮らすうちに生まれた彼の猜疑心が見せる幻であり、真実ではないとします。

また、大サビは眠った彼が見た夢で、本当は君を疑わずに、サバンナの動物達のように今を強く生きたいという彼の潜在的願望を表すとします。また同時に、野生の世界は時に残酷だが、それはヒトの世界も同じだと考える彼の姿も示すとしました。

彼は君を庇護を要するか弱き者と決めつけ、庇護者は自分でなくてはならないと執着しています。故に彼は、君の守護者として自身の代理たるナイフを贈るのです。またこれには、無自覚的な君への当てつけの意味もあるとします。以降では、思い込みを強める青年の物語を考えます。
曲に感じるダークなイメージ

一覧に戻る

2. 必要なもの

純粋で人の悪意を露ほども知らず、誰でも気軽にその懐へと招き入れてしまう、か弱くも優しい君。しかし、そんな君には彼の知らない一面があったようです。君は今、自分に嘘をついています。上手く隠したつもりでしょうが、彼にはお見通しでした。

かつて、将来を約束した二人。そして彼は、その夢の準備のため、はるばる街まで出てきたのです。ここでは、辛いことが沢山ありました。いや、辛いことしかありませんでした。それでも彼は、全ては二人の夢のために歯を喰いしばってきたのでした。

しかし今、君はそんな彼を見捨てようとしています。人とは、何と残酷な生き物か。ただ君の態度次第では、まだ間に合います。そう、君にはやり直しのチャンスが残されているのです。もちろん、彼は寛大な心でそれを受け入れるつもりでした。

君は自己主張しないその性格ゆえに、強引な誰かに押し切られてしまいそうなのでしょうから、情状酌量の余地はあるのです。ただ、君の隣は自分の指定席で、そこに議論の余地はありません。そして彼は、か弱い君には寄ってくる害虫を追い返す魔除けが必要とも理解したのでした。
魔除けのイメージ

一覧に戻る

3. 真実の日々

凍える寒空の下、彼は家路を急いでいました。彼は今日も、夢のために街で自分をすり減らしました。君の不実は彼には痛撃でしたが、間もなく君は深く反省し、心を入れ替えることでしょう。だから彼には、まだここで頑張る理由があるのでした。

ふと夜空を見上げると、妖しいほどに鮮やかな光を放つ満月が出ていました。時計に目をやると、午後六時。日の入りはまだ早いですが、間もなく春が、君の誕生日がやってきます。その時が来れば、彼が温めている計画で、君は全ての過ちを悟るでしょう。

ビュン。早足で歩く彼を追い抜いた影。月明かりに照らされたシルエットは、彼には見覚えのあるものでした。あれは、君の愛車と同じ車。これはきっと、君が自分の下に帰ってくる吉兆でしょう。あぁやはり、ついに彼の受難が報われる日が来るのです。

冷えた部屋に帰った彼は、身支度を済ませて直ぐに寝床へ潜り込みました。陰鬱の霧が広がる日々の中、彼が安らげるのは夢の中だけ。一刻も早く、この偽りの街を出て、田舎で君と人生を謳歌した日々に帰るのです。最近何故だか、あの美しき日々の輪郭が歪み始めているとしても。
鮮やかな満月のイメージ

一覧に戻る

4. ナイフ

翌朝、彼はいつもと同じように、のっそりと起き上がりました。ただ、満月の魔法が効いたのか、素敵な夢を見ることは出来ました。それは、自由の風が吹くサバンナの夢。後ろは一切振り返らず、前だけを見据えて、風を切って力強く進む夢でした。

この夢はきっと彼の、いや二人の未来を暗示しているに違いありません。彼と君とはいつか、困難な過去を乗り越えて、力強く人生を歩んでいくことが出来るようになるのです。そして彼は、そのために今何をするべきかもハッキリと分かっていました。

必要なのは、魔除け。買っておいたこのナイフを、間もなくやってくる君の誕生日に贈るのです。そうすれば、このナイフは君の心の支えとなり、二人を幸せに導くでしょう。そう彼は間もなく、か弱き君を救います。だから、どうか楽しみにしていてね。

私にとっての「ナイフ」は、孤独に犯された主人公が、信頼の絆があったはずの君への疑いを抱き、間違った考えで行動してしまう物語。彼には、現実を正しく認識する心と、思い込みで自己正当化を図る臆病な心の両方を感じています。しかし彼は、思い込みを選んでしまうのです。
彼が送るプレゼントのイメージ

一覧に戻る

 

さいごに

彼がナイフを贈った目的は、君を守護することでしたが、同時に無自覚的な当てつけも含まれていました。そして君は、およそプレゼントに似つかぬナイフを見て、そこに潜む意味を悟ってしまいました。二人の関係は、本当に崩れ始めます・・・。

こちらの記事もいかがですか?

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


error: Content is protected !!