「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「海ねこ」は、1992年にスピッツが発売したミニ・アルバム「オーロラになれなかった人のために」の収録曲。アルバムの流れとしては、曇り空が続いた中、ようやく訪れた晴れ間を感じる曲です。
以降では、そんな「海ねこ」の魅力を語りつつ、歌詞も考察。君との関係を壊したのは自分だったと気づいた青年の物語を考えました。
「海ねこ」とは
「海ねこ」は、「オーロラになれなかった人のために」の4曲目に位置する楽曲。前曲の、アルバムの中心曲「ナイフ」は漂うような雰囲気を持つ曲でしたが、この「海ねこ」は色鮮やかな青空を思わせるような、明るい雰囲気を持つ曲ですね。
曲名 | 曲調 | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | 「海ねこ」 | 空元気 |
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1. 演奏への印象
「海ねこ」の演奏は、明るい雰囲気で溢れています。アルバムの先頭曲「魔法」も明るい曲でしたが、意味深な後奏を持つ曲でもありました。一方、「海ねこ」は終始明るい感じですから、ある意味アルバムで唯一の明るい曲とも言えるでしょう。
また、「海ねこ」は演奏の雰囲気だけなら、「オーロラになれなかった人のために」ではなく、他のアルバムに入っていてもおかしくはないと感じます。例えば、明るいアレンジが多い第4作アルバム、「Crispy!」などにはハマる気がしますね。
ただ、アルバムの流れを踏まえて曲を見ると、「海ねこ」が持つ明るさには裏を感じます。詳しくは後述しますが、私にとってはこの明るさは空元気。そして、この明るい演奏もまた、アルバムの物語の中で欠かせないピースの一部だと感じています。
2. 個人的な想い
空元気感は、「oh」や「yeah」が頻繁に登場する歌詞や、間奏のスキャットに表れていると感じています。本当はそんな気分ではないけれど、何とか気分を盛り上げようという感じでしょうか。そんな訳で、曲には全体として「偽装」を感じています。
例えば、この曲には現実逃避のフワフワした感じとやけっぱちの香りも感じていますし、そのタイトルには彼のフワフワ感を表す役割がある気もしています。彼がもし「海ねこ」になるなら、彼は文字通り地に足が付いていないことになりますからね。
ところで、ここで彼がフワフワしているからこそ、次曲の「涙」での彼の態度が際立つのだと感じています。この意味で、「海ねこ」は演奏の表面的な印象ではアルバム内で浮いているようですが、アルバムの物語上とても大切な曲だと感じています。
歌詞の世界を考える
ここからは、「海ねこ」の歌詞を追いながら、その歌詞の意味する世界を考えていきます。今回の考察テーマは、「今更だけれど」としました。また、そのテーマを補足するため、以下の3つのトピックを準備しました!
解釈は私の感想に過ぎず、全くもって他人に押し付けるものではありません。また、作詞意図に沿った「正解の解釈」より、私の感想が優先されます。なお以下で、私の解釈のスタンスをまとめています!
1. 考察の前提
アルバム1曲目の「魔法」の記事で述べた通り、私は本作を一続きの物語と考えています。この「海ねこ」では、「ナイフ」で君との関係を自ら壊した主人公が我に返って過ちに気づくも、取り返しのつかない事態を前に現実逃避する姿を考えます。
彼が予期していたとする結末は、君を失う結末とします。彼は田舎を離れる際、その決断が二人の関係を壊すかもしれないと、心の何処かでは感じていたということです。ただ結局、彼はそれを杞憂と一蹴し、君を残して街に出ることを選んだとします。
ただ結局、街で歪んだ彼は君を失いました。彼が感じた杞憂は、現実となってしまったのです。そして彼は、全てを失った後で覆水盆に返らずながら、幸せは掴み取るものではなく、ただ君といるだけで湧き上がるものだったと感じているとします。
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2. 青き天
ああ、なんていい天気でしょう。晴れ渡る青空と、そこをのんびり渡る雲。世界を覆っていた霧もいつしか晴れ、久しぶりに鮮やかな色が目に飛び込んできました。いや、彼がずっと俯いていたから、空がこれほど青いことに気づかなかったのでしょうか。
しかし、この鮮やかな世界は、今の彼にはどこかうすら寒いものに見えていました。自由の大空と、のん気な雲。昔の彼ならきっとそう見えたことでしょう。しかし今の彼には、空の青は作り物めいて見え、流れる雲もどこか寂しそうに見えるのでした。
その理由は、わざわざ分析するまでもありません。君が自分の隣にいないことが全ての原因なのは、火を見るより明らかなのですから。大好きだった、優しい君。二人で幸せになるはずだった君。そして、自分が愚かにも疑い、傷つけてしまった君が。
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3. 海ねこ
今の自分に、後悔先に立たず以上に相応しい言葉はないでしょう。ああ一体、どうして自分はあのとき、胸の杞憂を無視したのか。そして何より、どうして君の言葉に耳を貸さなかったのか。二人でいるだけで、日々は美しく光り輝いていたのに。
確かに、美しい世界。しかし、君が隣にいなければどんな世界も絵に描いた餅。彼にはもはや、世界は存在しないも同然なのでした。そして、そんな崖っぷちの世界なら、明日急に表情を変えて全ての終わりを宣告したとしても、何ら驚きはありません。
だから彼は、自分勝手と知りながらも願うのでした。気まぐれな最後の日がやってくる前に、大いなる天の慈悲で、君を自分の横に戻してほしいと。昔のままの、優しく、明るく笑う大好きな君を。ああ、どうかお願い。大切な君を今日だけ僕の傍に。
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さいごに
前曲「ナイフ」での、危うい状態は脱した彼。しかし既に手遅れで、君との信頼関係は失われていました。そして彼は、そんな現実を受け止めきれず、フワフワした気分で生きているのでした。そして二人の物語は、次曲の「涙」で実質的結末を迎えます。