「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「涙」は、1992年にスピッツが発売したミニ・アルバム「オーロラになれなかった人のために」の収録曲。悲し気ながらも気品ある優美な演奏には、闇に差した聖なる光を感じずにはいられません。
以降では、そんな「涙」の魅力を語りつつ、歌詞も考察。永遠の離別の切なさを抑え、今後の君の幸せを願う青年の物語を考えました。
「涙」とは
「涙」は、「オーロラになれなかった人のために」の最後に配置された楽曲。つまり、この幻想的なアルバムは、この悲しくも優しい「涙」で幕を下ろすのです。ただ、私がこのアルバムに感じる一連の物語は、1曲目の「魔法」が最後となります。
曲名 | 曲調 | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | 「涙」 | 悲しく優しく |
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1. 演奏への印象
「涙」は、このアルバムならではのアレンジを強く感じる曲。つまり、いわゆるロックバンド的な演奏は一切なく、ヴァイオリン類の楽器の気品ある演奏が展開されているのです。歌詞とも美しくマッチした、聖なるオーラを纏った演奏だと感じますね。
ヴァイオリン等の弦楽器が曲の中心で感動の波を作るとすれば、冒頭や曲終わりで美しく響くハープは、零れ落ちる清らかな涙の粒と言えるかもしれません。メリハリのある演奏には不思議な引力を感じ、それはまるで幻想的な月の魔法のようですね。
また、この「涙」はボーカルも魅力的です。個人的に、デビュー時期の草野さんのボーカルは鋭く尖った少年の声という印象が強いのですが、この「涙」にはやや掠れ気味のハスキー寄りのボーカルを感じます。また、持ち味の高音連発も美しいですね。
2. 個人的な想い
「涙」は、「オーロラになれなかった人のために」を閉じる楽曲ですが、私はこの「涙」はオーロラを強く連想させる曲の一つだと感じています。「涙」の気品ある雰囲気が、そして感じる月光の魔法がオーロラの神々しさと結びつく気がするのです。
アルバムのタイトルから言っても、この作品が悲し気な雰囲気を帯びるのは当然でしょうし、実際に収録曲も意味深な曲ばかりです。ただ、この「涙」から溢れ出る聖なる光によって、アルバムの結末に多少の救いがもたらされる感覚がありますね。
君を失った悲しい結末、主人公がオーロラになれなかった結末は変わりません。ただそれでも、優しい月明かりが照らす「涙」には救いはあるはず。私は、歌詞中の二人はもう一緒にはいられなくとも、彼は君を想う真摯な心は取り戻したと感じています。
歌詞の世界を考える
ここからは、「涙」の歌詞を追いながら、その歌詞の意味する世界を考えていきます。今回の考察テーマは、「切なくとも」としました。また、そのテーマを補足するため、以下の3つのトピックを準備しました!
解釈は私の感想に過ぎず、全くもって他人に押し付けるものではありません。また、作詞意図に沿った「正解の解釈」より、私の感想が優先されます。なお以下で、私の解釈のスタンスをまとめています!
1. 考察の前提
アルバム1曲目の「魔法」の記事で述べた通り、私は本作を一続きの物語と考えています。物語の終着点である「涙」では、傷つけてしまった君の姿を想像しながら、その君の未来が、自分抜きでも明るく開けることを願う主人公の物語を考えます。
君は、遠く離れた街にいる彼をずっと想っていましたが、その彼からの不信の贈り物、ナイフによって、大切な恋人が自分に向ける疑心を知りました。そしてそのとき、君はいつでも二人の心は一緒という自分の感覚が真実ではなかったと悟ったとします。
一方の彼は、「海ねこ」でのフワフワ感を脱して現実を直視していて、自分が君を傷つけたことを認識しています。以降では、二人の関係は二度と戻らないことを受け入れたうえで、それでも大切な君が幸せを掴むことを願う青年の物語を考えます。
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2. 覆水
愚かだった自分。大切な君を疑い、深く傷つけた自分。今の彼には、自分が犯した過ちがハッキリと認識できていました。あの時の自分は、どうかしていました。しかし、覆水盆に返らず。彼と君の道は既に分かたれ、二度と交わることはありません。
今となっては、君がずっと自分を愛してくれていたのだと分かります。しかし、自分はそんな君を疑い、君を深く傷つけました。罪悪感に苛まれる彼の脳裏には、最愛の恋人に疑われていると知った時の、君の悲し気な表情がありありと浮かぶのでした。
離れ離れでも心は一つと信じていたのに、本当は自分は一人だった。その事実は、人を疑うことを知らない、純なる君を深く傷つけたでしょう。実際、彼の脳裏に浮かぶ君はいつも悲し気な笑みを浮かべていました。その瞳に大粒の涙を湛えて。
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3. 涙
彼は今、ただただ君の幸せを願っていました。今でも彼を責めることのない、優しすぎる君。そんな君は必ず大いなる存在の目に留まり、その寵愛を受けるでしょう。そして、彼女自身さえ気づかぬままに天恵を受けて、幸せへと導かれるはずです。
君ほど清らかな心を持つならば、そんな幸せな運命が待っているに違いないのです。そう、救いの手は間もなく差し伸べられるはず。大いなる力を宿した月が、君の部屋に差し込むとき。その月光を涙に濡れた瞳で受け止めたとき、全てが変わるでしょう。
色を失っていた君の世界は、そのとき再び鮮やかな色を得るでしょう。そして君は、彼自身が与えた悲しみから解き放たれ、再び未来へと歩き出すのです。あぁ、解放のときは間もなくやってきます。君にとっての自分が、ただの過去になるその時が。
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さいごに
彼は、君が再び未来を見ることを望んでいますが、それは彼が君の中で過去になることでもあります。ただ彼は切なさを飲み込み、君の幸せを願うのです。二人の物語は実質的にはここで幕を閉じますが、彼の物語はエピローグ的な「魔法」へと続きます。