「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「トゲトゲの木」は、スピッツのデビュー前から存在していた曲で、お気楽な感じと切ない感じが同居した興味深い一曲ですね。
以降では、そんな「トゲトゲの木」の魅力を語りつつ、歌詞の意味も考察。幻に別れを告げ、現実を生き始める青年の物語を考えます!
「トゲトゲの木」とは
「トゲトゲの木」は、スピッツがインディーズ時代に制作したCD「ヒバリのこころ」に収録されている楽曲で、1999年発売のスペシャルアルバム「花鳥風月」にも収録されました。初期スピッツの不思議な世界観を感じる、やや癖のある一曲ですね。
曲名 | 曲調 | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | トゲトゲの木 | 明るく切なく |
---|
1. 演奏への印象
「トゲトゲの木」の演奏を聴いて、始めに浮かぶのはお気楽な印象。ただ、曲全体にメリハリがあり、明るくお気楽なメロとチャキチャキしたサビ前半、そしてしっとり切ない感じのサビ後半と、歌詞の物語展開を感じるような構成になっていますね。
また「トゲトゲの木」は、ボーカルが注目の一曲でもあります。曲名とは裏腹に、そのボーカルには他のインディーズ曲にあるようなトゲではなく、ゆるさを感じます。また、メロの中低音パートには、大げさに口を動かして歌ったような響きを感じますね。
この手のやや作為的なボーカルは、近年のスピッツには殆ど感じない要素ですが、若さを感じるこの歌い方もいい感じです。ただ個人的には、今の草野さんの広がりのあるハスキーな声が映えるのは、自然・開放を感じる今のスタイルだとも感じますね。
2. 個人的な想い
「トゲトゲの木」は、歌詞が面白いですね。いい感じに力が抜けたお気楽な雰囲気があるかと思えば、意味深で寂しげな結末を想起させる歌詞も。そして何より、2番冒頭の「お気楽」とも「意味深」とも取れそうな、トゲトゲだらけの歌詞が気になります。
1番冒頭の独特な、ただ何となく意味は分かりそうな造語の擬音も面白いですね。考えてみると、インディーズの楽曲には子供っぽい擬音がよく出てくる気もします。それは、パンクにも繋がる飾らないスタイルを演出するためなのかもしれませんね。
また、曲タイトルには、昔教科書で読んだ気がする「モチモチの木」を連想する私がいます。主人公のイメージも少し重なる気がしています。私と同じくらいの年齢のスピッツファンの方なら、同じ感覚を抱く方もいらっしゃるかもしれませんね。
歌詞の世界を考える
ここからは、「トゲトゲの木」の歌詞を追いながら、歌詞の意味する世界を考えていきます。今回の考察テーマは、「幻から醒めるとき」としました。また、そのテーマを補足するために、以下の3つのトピックを準備してみました!
解釈は私の感想に過ぎず、全くもって他人に押し付けるものではありません。また、作詞意図に沿った「正解の解釈」より、私の感想が優先されます。なお以下で、私の解釈のスタンスをまとめています!
1. 考察の前提
主人公がトゲトゲの木の上にいる描写から、彼とその木は密接した関係と考えました。そこで、その木は彼の現実、それもトゲある辛めの現実を指すとします。ただ彼は、現実に向き合わずに妄想の蜜を吸うハナムグリとなり、妄想の中で生きています。
また、彼が求めていたものは幸せな気分とします。それは現実では見つかりませんでしたが、妄想の中では見つかっています。そして彼は、その幸せを君におすそ分けすれば、それは君の演技を終わらせ、君は本当は彼を好きと認めると考えています。
ただ一方、そんな都合の良い妄想は弱まりつつあり、彼も本心ではそれが現実逃避だと気づいています。2番のトゲトゲの連呼と積乱雲の存在はそれぞれ、彼が現実の痛みを感じていることと嵐の接近、即ち甘い妄想の終焉が近いことを示すとしました。
(一覧に戻る)
2. 甘い幻
現実など忘れて、もうひと眠り。彼を囲む現実はトゲトゲしいもので、そこでは心安らぐ暇もありません。しかし、妄想の蜜を吸うハナムグリに変われば、全ては解決でした。トゲの痛みなど、それらしい理由をこしらえて忘れてしまえばいいのです。
ほら、彼は今日もトゲトゲの木を離れ甘い香りのする花の中に潜り込むことが出来ました。この優しい世界の中なら、彼も安心して心を解き放つことが出来ます。甘い香りに誘われて、あちらこちらへ釣られる心は、楽し気な気分に包まれていました。
この世界では、望むものは何だって手に入れることが出来ます。君があんなことを言った理由だって、もう分かっていました。そう、君は照れていただけ。本当は、彼が好きなのです。だから彼は、君にも幸せな気分をおすそ分けしたいと思うのでした。
(一覧に戻る)
3. トゲトゲの木
近頃、妄想の力を使って花の中に潜り込んでも、心がチクチク痛む感覚があります。それはまるで、花の中ではなくトゲトゲの木の上にいるかのよう。いや、結局はそれが現実。彼はだんだんと、ハナムグリになることが難しくなっていたのでした。
真夏の青空には、巨大な雲。あの雲はやがてこちらへと流れ青空を覆い、激しい嵐を起こすでしょう。照り付ける太陽も、それを予期して遠慮がちに浮かんでいるようにさえ見えてきました。やはり、甘い妄想の日々に終わりが迫っているのです。
先ほどまで浮かんでいた君の幻も、いつの間にか虚空へと消え去っていました。そして何故だか、彼にはもう君の幻が戻ることは無いと分かったのでした。そう悟った彼は、宙を見据えて小さく呟きました。今までありがとう、そしてどうか元気で、と。
(一覧に戻る)
さいごに
二人の関係としては、直情的でやや失礼な君と、君を優しく見守る彼を考えることも出来ますが、悟った感じは歌詞の幼い感じとは馴染みが悪い気もします。やはり、私にとっての「トゲトゲの木」は、未熟な少年の成長の物語という感覚が強いですね。