「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回ご紹介する「魔女旅に出る」は、デビュー3年後のスピッツが放った、ポップな初期の名作ソングの一つ。複数の有名人が、この曲をスピッツのお気に入りソングとしていることでも知られています。
この記事では、幻想的な歌詞が描く世界を考察をしつつ、この曲の魅力を語ります。旅に出る魔女とは、一体、誰なのでしょうか?
「魔女旅に出る」とは
「魔女旅に出る」は、スピッツが1991年に発売した通算3作目のシングル曲で、ひと月後に発売したアルバム「名前を付けてやる」にも収録されています。可愛らしくポップな曲調と幻想的な歌詞が魅力的な一曲で、個人的なお気に入り度は星4.5です。
この曲の歌詞は、初期スピッツに特長的な抽象的世界のエッセンスが満載。こういう歌詞は、天才肌の方を惹きつけるのかもしれません。将棋棋士の藤井聡太さんが、この曲をスピッツのお気に入りソングとして挙げていましたね。
曲名 | 曲調 | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | 魔女旅に出る | ポップなファンタジー |
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「魔女旅に出る」の印象
さて、そんな「魔女旅に出る」に対しての、個人的な印象を語っていきます。以下の3つの要素のすべてに魅力がありますが、個人的なこの曲のハイライトは歌詞だと考えています。この曲は、美しいワーディングが存分に楽しめる一曲ですね!。
1. 演奏について
この曲が持つ神秘性、奥深い雰囲気を作り出しているのは、ロックバンドとしての楽器だけではありません。この曲には、スピッツとしては初めて弦楽器、ストリングスが強くフィーチャーされていますが、それらがこの曲の世界観の中心にあります。
ロックを好む方には、ストリングスは賛否両論かもしれませんが、ここぞというときに使う分には問題ないと考えています。多用しすぎるとクドくなりますが、私としては「曲が良くなるならOK」。もともと、オーケストラも好きですしね。
ストリングス・アレンジに難点があるとすれば、ライブでの再現が難しいということでしょうか。多彩なメンバーも、流石にバイオリンなどは弾くことが出来ないでしょうし、そもそも彼らには自分たちの演奏パートもありますからね。
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2. ボーカルについて
この曲のボーカルは、草野さん初期独特の歌い方が現れている気がします。この曲が発売されたのはデビューから3年後ですから、既にパンクバンド路線は卒業しているとは思うのですが、どことなく初期のパンクっぽい歌い方が残っていると感じます。
特にその傾向を感じるのは、サビの「ラララ」の部分でしょうか。デビュー前後の草野さんは、あえて鼻を強調する歌い方をしていることがあるように思いますが、この曲のサビにおいても、その傾向を聞き取ることが出来ます。
可愛らしい曲の中で、歌い方が少し尖っているのは興味深いです。ただ、この曲の歌詞と照らし合わせて考えると、主人公には少しばかりの強がりの気持ちも含まれているはずですから、その感情とマッチしていると言えるかもしれません。
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3. 歌詞について
歌詞に関して言えば、この曲を特別な曲にしている一番の要素でしょう。この曲は、草野さんが「かわいい魔女ジニー」なる魔女っ子ストーリーをもとに作り出したらしいですが、私はその話を見たことがないので、その設定は考えないことにします。
この曲のテーマは、「魔女旅に出る」という曲のタイトルを考えれば、「旅立ち」であると考えて問題ないでしょう。ただ、旅立っていく魔女は誰で、その人物が魔女と呼ばれている理由については、解釈が分かれるかもしれません。
私としては、旅立つ人物は、温かな親の庇護の外へ飛び出していこうとしている若い女性だと解釈しました。無限の可能性を持った女性は、殆ど魔法の様な存在。だからこそ、その女性を魔女だとしているのではないでしょうか。
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歌詞の世界を妄想する
ここからは、「魔女旅に出る」のストーリーを、実際に歌詞を追いながら考えてみます。この曲のテーマは、先述の考えを踏襲し、「愛娘の旅立ち」としました。このテーマを考えるにあたり、以下の3つのトピックを準備しました。
1. 登場人物とその関係
この曲に登場するのは、僕と君の二人です。それぞれ主人公と魔女だと考えてよいでしょう。この二人の関係性については、今回は親子関係として考え、主人公は中年、魔女は少女から女性へと成長するくらいの年齢であるとしました。
彼にとっての君が「魔女」であるのは、様々な理由が考えられます。未来を自由に描く将来性の輝き、一緒に人生を歩んできた喜び、そしてこの世に生まれてきてくれた奇跡。彼からすれば、君にまつわる全てが、魔法のようなものなのでしょう。
一方、彼の大切な魔女は、父親を愛する心優しい女性だと思います。彼女は、旅立ちを前に涙を流しているようですが、この涙は惜別の涙のはずです。また、最大の愛情を受けて育った彼女が、優しい女性にならないはずがありません。
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2. 旅立つ娘への想い
この曲は全体として、主人公である父親が、愛娘の旅立ちを見送る際の心境を歌った歌だと考えています。そんな心境を歌った曲として、メロの歌詞を考えてみます。まずは、歌詞冒頭で登場する「苺の味」が何を意味しているか、から始めましょう。
苺は、甘みもありますが、意外に酸っぱいです。私が子どもの頃も、苺シロップなしでは食べませんでした。そんな苺が象徴する物は、甘さと酸味を兼ね備えた物であり、それは当然、旅立っていく魔女に向けられた感情を示しています。
「愛娘の成長は嬉しいが、まだ自分の下を離れるのは早いのではないか」という感情かもしれません。しかし、最終的には君の背中を見送ることを決意しています。甘くも酸っぱい葛藤を越えて、彼は魔女の旅立ちを祝福するのです。
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3. ガラス玉の世界
2番のメロは、主人公が愛娘に向けたエールだと考えてもいいかもしれませんね。ここに出てくるガラスとは、何でしょうか。私はここでのガラスは、純情さや、少しだけ現実を知らない未熟な物の象徴として使われているように感じます。
子どもは、キラキラ光るガラス玉を喜んで集めたりします。ただ、ガラスには、ダイヤモンドのような価値はありません。しかし、子どもたちにとって、そんなことを語るのはナンセンスの極みでしょう。ガラス玉は、彼らを確実に笑顔にするのです。
ガラス玉の世界が消えるというのは、子どもの頃のような自分自身の価値観をベースにしていた愚かな世界に幕を下ろし、自分以外の主体が指定する価値観をベースにする賢い世界へと旅立っていくことを意味しているのかもしれません。
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4. いつでも頼れる光
サビ直前で歌われる「まだら模様」とは、一体何を意味しているでしょうか。私には、アレコレ手を出したどっちつかずの色の集合体を表しているように思えます。つまり、あまり良いイメージがある言葉であるとは考えていません。
そんな迷いや雑念としての「まだら模様」を振り払って、幼き日に描いた夢を胸に灯して、険しい道を歩んでいってほしい。サビで歌われる気持ちは、主人公からのこんなエールであると捉えることができないでしょうか。
また、歪んだ鏡の世界とは、自分の姿を正しく見ることが出来ない世界の象徴かもしれません。適応を優先し、幼き日に見た愚かな憧れを忘れていく世界。主人公は、愛娘にそんな世界とは別の、自分の世界を生きて欲しいと願っている気がします。
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さいごに
「魔女旅に出る」は、スピッツの奥深い世界観が楽しめる一曲です。私自身は、「深い愛情で結ばれた親子」をテーマにしてみましたが、もちろん恋人関係で考えることもできるでしょう。貴方は、どんなストーリーが一番しっくりきますか?
「2ndアルバム、「名前をつけてやる」を語る」も、ぜひご覧下さい!