「素晴らしい音楽なくして、素晴らしい人生なし」。この記事は、そんな私の人生を彩ってくれる楽曲たちを紹介していくコーナーです。
今回の「TRABANT」は、スピッツの13thアルバム「とげまる」に収録された楽曲。スピッツには珍しい英字タイトルの本曲は、このアルバムでの「とげ」を担当する、疾走感に溢れたダーク系ロックです。
この記事では、そんな「TRABANT」の魅力を語りつつ、歌詞の意味も考察。TRABANTという車は、曲内で何を象徴するのでしょうか?
「TRABANT」とは
「TRABANT」は、スピッツが2010年に発売した13thアルバム「とげまる」の収録曲です。前曲の「幻のドラゴン」は爽快なロックナンバーでしたが、この「TRABANT」は明るい前曲から一転、暗めの情景を運んでくるクールなロックナンバーです!
曲名 | 曲調 | 一般知名度 | お気に入り度 | |
1 | TRABANT | 闇夜ロック |
---|
1. 演奏への印象
スピッツは、明るくポップで優しいバンド。そんなイメージを持っていた私が、初めて出会ったクールに振り切ったスピッツ曲が「TRABANT」でした。全体的に暗めの音作りと、その中で輝くハモリ付きボーカルのコントラストが見事な一曲ですね。
クールなギターが主役の短いイントロに始まり、直ぐに爆発するかのように力強い演奏が加わるというメリハリがカッコいいです。全体の演奏では、高揚感を生む力強いドラムビートと、緊迫感や圧迫感を感じさせる、高速連打のベースが特に印象的ですね。
また、曲のボーカルもカッコいいですね。少し掠れた感じの声が、「TRABANT」が持つ、擦り切れた感じと言うか、少し色落ちした曲の雰囲気に強くマッチしているのです。無理に声を作ることなく自然体を貫くボーカルは、まさに私の理想ですね!
2. 個人的な想い
「TRABANT」は、私が初めて聴いた「闇夜ロック」の楽曲。当時の私は、スピッツのロックな顔に驚いたものです。また、私は「TRABANT」は、「点と点」の兄弟曲と勝手に認定しています。どちらにも、疾走感と暗めの雰囲気を感じるからです。
また、1番の唐辛子に関する歌詞が、非常に印象深い。色々な読み方が出来る面白い言葉の使い方ですね。ここでの唐辛子は、主人公が求める人生の刺激を暗示するものだと考えていますが、いずれにせよ独特な表現方法だと言えるでしょう。
また、「TRABANT」は、男性のボイトレにもおススメの一曲です。終始中音域を連発しますし、サビはhiA#の使用が求められます。草野さんのように、軽やかかつ伸びやかな声をイメージしながら歌うと、ミックスボイスの良い練習になりますね!
歌詞の世界を考える
ここからは、「TRABANT」の歌詞を追いながら、その歌詞の意味する世界を考えていきます。今回の考察テーマは、「君と一緒に掟の外へ」としました。また、その考察テーマを補足するために以下の通り、4つのトピックを準備してみました!
曲解釈は私の想像であり、他人に押し付ける物ではありません。ただ、出来る限り想像の根拠が提示できるように、歌詞とリンクさせながら進めていきます。私の想像を楽しんでいただけると、嬉しく思います!
1. 考察の前提
「TRABANT」には、スピッツのコアだと感じる「掟からの脱出」というテーマを感じています。私にとっての「TRABANT」は、常識の掟に捕らわれて色を失った日々から抜け出して、かつて見た愚かな夢の続きを生きることを願う青年の歌なのです。
また、「TRABANT」での掟の描写はいつもより辛辣で、特に2番メロが印象的です。掟がもたらす栄光や成功を偽物と断罪したり、掟の世界では大切な感情さえも配られる皮肉る描写には、掟に従って生きる主人公が腹の底で抱える反発が感じられます。
ところで「TRABANT」とは過去に欧州で生産されていた車で、この曲では「古さ」を象徴していると感じています。そして、この曲での「古さ」は、先進的な掟と対照的なものであり、かつ、主人公が心惹かれるものとして描かれていると感じています。
(一覧に戻る)
2. 沈んだ日々
巨大な街では、掟から染み出す甘美な蜜に人々が殺到しています。誰も彼も、その甘美な蜜を一掬いしては、その甘さに酔いしれています。そして彼もまた、その蜜の残り粕にありついて生きていました。その生き方に、どこか引っ掛かりを覚えながら。
ただ、掟が支配するこの街において、はみ出し者になることはとても危険なことです。世界の中で浮き上がれば、嘲笑や侮蔑など多くの悪意の的になるでしょう。だからこそ彼は、自分が掟の論理に共感しないなどと口にすることはありませんでした。
そんな彼は、掟が認める「普通の集団」から落ちこぼれまいと、本心を抑えて生きているのでした。調和を重んじて柔和な笑みを浮かべ、掟が振りまく幸せの種を喜ぶフリまでしました。その掟こそが灰色の元凶だと叫ぶ本心には、頑なに目を背けて。
(一覧に戻る)
3. 灰にまみれ
掟の教えに従って生きれば、確かに波のない日々を享受できます。しかし一方で、彼の本心はその安定はまやかしだと叫びます。彼は長い間、掟に従おうとする賢明な心と、それに逆らおうとする愚かな本心という、二つの心の板挟みになってきたのでした。
ただ最近の彼は、自分にとっての掟の価値について考えるようになりました。結局のところ、どんなに掟に従順に生きても、その旅路はどこかで果てを迎えるのです。それは、掟もまた、唯一絶対ではなく限界あるものである証左ではありませんか。
思えば彼にも、かつて憧れた夢があったはず。しかし、掟に取り込まれ、心を灰色に溶かすうち、いつしか彼はその夢を描くのを止めてしまいました。心の片隅に放置されたその夢は、灰を被って横たわっています。このままで、いいのでしょうか。
(一覧に戻る)
4. TRABANT
二つの心の板挟みとなっていた彼も、ついに旅立ちの決意を固めました。今はまだ時期尚早ですが、時が来たならば、彼は昔からの相棒「TRABANT」に乗って、掟の外へ飛び出すのです。欺瞞で汚れてしまった昔の相棒も、間違いなく喜ぶでしょう。
そのとき彼は、十分な筋書きもない、憧れだけの愚かな夢の続きを見るのです。推敲に満ちた掟の枠を飛び出し、心の衝動に身を委ねるのです。そして彼は、掟が馬鹿にする愚かな欠片を拾い集めて、掟の論理で覆われてしまった夢を復元するのです。
彼が望む旅は、愚かな自分に戻る旅。掟の世界で拾い上げたものは殆ど必要ないでしょう。そう、単純な憧れさえあれば、十分なのです。憧れを胸に、彼は今日も旅立ちの機が熟するのを待っています。掟の泥を落として、自分自身に帰る日を。
(一覧に戻る)
さいごに
群れから離れる描写は、後年の名曲「ヤマブキ」にも通じるものがありますね。群れから、掟から離れるということは、スピッツの楽曲で繰り返し描かれるテーマなのです。つまりは、自分らしく生きることを応援することが、スピッツのコアなのです!